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STORY

トリミング・マイ・ライフ

ファッションにおけるスクールスタイルの教則映画、その金字塔といえば「アナザー・カントリー」(1984)と昔から相場は決まっているわけなんだけど、よほどの美男子でもない限りルパート・エヴェレットが劇中で見事に着こなしていた全身オフ白のブレザースタイルは流石に攻略できまい。そもそも1980年代映画なだけあって(衣装そのものの作り込みは歴史服に忠実と思われるが)スタイリングのそこかしこにはファッション性高め、ファンタジー要素強めのアレンジを見て取ることができる(特に有名なのはルパートがクリケットの審判役をやるシーンのスタイリング…かな)。で、話は戻ってルパートのオフ白スクールブレザー姿。ケーブルニットを腰に巻いた、ごく自然な着崩しが異常にサマになっているんだけど、ここで(鑑賞当時の)僕の心を捉えたのはブレザーの袖や襟周りを縁取っている「トリミング」の存在であった。とはいえ、実際に初めて本作を観たのは20年以上前だし、自宅のどこかにはDVDを所有しているんだけどDVDプレイヤーが壊れているから白ブレザーのトリミングがどんな感じだったのか?を今すぐには確認できない。おぼろげな記憶をたどって画像検索してみたところ、果たして、そのトリミングの色は「薄ピンク」だった。いったいどこからやってくるものなんだろう、この配色センスは?

そもそもトリミングの歴史は「襟や袖口、裾など摩耗しやすい部分に補強として別布を縫い付けることでジャケット全体の耐久性を高める」という機能性から始まったらしい。いつからかトリミングは、階級や所属を示すために襟や袖に装飾を施していた軍服や制服(ブレザーもこれに当たる)に使われる時代を経由して、例えばシャネルのツイードジャケットに至る頃には「視覚的なファッションデザイン」の要素がかなり強くなっていったが、これは当時から自立した女性像を追い求めたココ・シャネルが積極的に取り入れてきた(乗馬服や漁師服と同様の)「男性服モチーフ」に当たるのかもしれないし、当たらないのかもしれない。その後のファッション史においてジャケットの「トリミング」から連想されるデザイナーと言えば、例えば僕はトミー・ナッターやトム・ブラウンを思い浮かべるが、後者は分かりやすくスクールブレザー直系のデザインですね。…と、開始早々長々と、お前は何をそんなにハイエナジーで「トリミング」について熱く語っておるのだ?と問われたら、お察しのとおり。高円寺の古着店「Bon Vieux」のためにトリミング仕様のブレザーを企画しました、鶴田。



しかしですよ。先述のとおり、トリミングブレザーの着こなしにおいてルパート・エヴェレットの右に出る者など存在しない。だから、まずはオフ白ブレザーを素早く却下。そして、トム・ブラウンの後に連隊式に続いてもしょうがないのでグレーブレザーもやめておこう。一瞬だけ「キャメル?」案も出たが、やはり派手だろうということになり、結果として僕と大島氏は普通にネイビーブレザーを作ることにした。ただし「Bon Vieux×NEJI」の醍醐味は「クラシックの範疇から大きく逸脱することはないけれど、ちょっとしたツイスト加減(NEJIの回転)でもって、見慣れていたはずの定番アイテムを新鮮に奥深く楽しんでもらう」という点にある(と思う)。


こうして出来上がったのが「ショールカラートリミングブレザー」というツイステッドアイテム。袖口や襟のトリミングに加えて胸にエンブレムを配することで「ドレッシングガウンのようなショールカラータキシードのような、ネイビーブレザー」が完成した。「ブレザー」と言ってはみたものの、ベタな金ボタンを使わずナットボタンにすることで控えめな印象に。また、ジャケット全体を取り囲むトリミングはブラックキュプラをチョイス。ボディとのコントラストを付けず、ワントーンで綺麗に収めた。ここまでの時点では、どちらかというとかなりエレガントなネイビージャケットという感じ。1つ釦だしね。


しかし、胸元を見よ。この一着のために一から製作した力作、オリジナルの金モールエンブレムが輝いている。ど真ん中にはアルファベット「BV」、その上に円が連続したネジマーク(手作業で作る刺繍の限界があって、五輪になってしまったが、そのアナログさも逆に御愛嬌ということで…)が入る。また、通常だと学校やチーム名を表記してある文字列部分には「And, everyone is merely a player」「As you like it」と書いてもらった。これは大島氏に「文字はどうします?」と尋ねられた僕が即興で考えたもので、察しの良い方はお気づきのはず。この文言はシェイクスピアからの引用、「この世は舞台、人はみな役者」であり、「お気に召すまま」である。このジャケットはスクールブレザーというユニフォームルックから着想を得たアイテムではあるが、「杓子定規な制約を取り払い、どうぞ好きに着こなして下さい」「人はそれぞれにそれぞれの配役があるんだから」という想いを込めた。




肩には薄手のパッドを入れてあるが、1つ釦のヘチマ襟なので、実際に着てみると意外にリラックスしたムードになる。これはガウンっぽさが作用した結果?しかし、タキシードやドレッシングガウンが放つスモーキングタイム、つまり優雅に寛ぐ夜の時間帯に逆張りをするならば、ミリタリーアイテムをミックスして男臭くコーディネートするのが最も素直で分かりやすい。もっと砕けた雰囲気に持ち込むならばTシャツやブルージーンズの上からポイっと雑に羽織るだけでいい。



タイドアップは勿論ハマる。季節柄、例えば年末の忘年会や謝恩会に合わせて着ていくのも洒落ているだろう。ダブルカフスの白シャツ、黒ボウタイ、グレーパンツ、オペラパンプスなどを合わせてみれば、そのワインバーでぶっちぎりのウェルドレッサーになれそうだ。スマートな態度で女性をエスコートするのも忘れずに。

…などと、開高健か池波正太郎か伊丹十三か、はたまた片岡義男か?「そんなシチュエーション、令和の時代にあるかいな?」と疑問符のラッシュが飛んできそうなことを、文豪気取りで偉そうに抜け抜けと申し上げましたが、まぁ、たまにはそんな妄想を楽しんでみるのもいいんじゃない?勿論、今の時代、着崩す分には自由。「ドレッシングガウンのようなショールカラータキシードのような、ネイビーブレザー」=折衷アイテムのインナーはバスクシャツでもスウェットパーカでもシャンブレーシャツでも、なんでもござれ。つまり、シガーバーとキャンバススニーカーの間を自由に往来できるジャケット。だからこそ、ちょっと気取りたいときに程よく気取れるくらいの洋服がクローゼットの中に1着くらいあってもいいだろう。この世は舞台、人はみな役者。自分の人生の主役は自分自身でしかない。お気に召すまま、気の向くまま、もっと自由に大らかに生きてみたい。何かを気取ってみることは、退屈な人生から脱却する第一歩なのかもしれない。英語のトリミング(trimming)には「切り取る」「刈り込む」「整頓する」という意味の他に、「飾る」というニュアンスが含まれるらしい。

【NEJI pour Bon Vieux TRIMMING SCHOOL BLAZER】は11月16日(土)13時より高円寺「Bon Vieux」にて発売予定。
Bon Vieux 東京都杉並区高円寺南3-37-1  不定休
Instagram@bon_vieux_

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。