都内の商店街を舞台にしたDEAD KENNEDYS CLOTHINGのルック撮影。スタイリング/ディレクションの中に「ペインティング」を盛り込んでみようと思った。協力してくれたのは、その商店街のすぐそばに住んでいるモデルのKOTA君。「顔、塗ってもいい?家、近いからすぐ落とせるよね?」と訊いたら「まったく問題ないです」と快諾してくれた。
小学生時代の写生大会ぶりに、屋外で水彩絵の具を塗った。相手が画用紙や画板ではなく人の顔面だという点を除けば、塗っている間の楽しさは同じだった。今回の撮影は「繁華街の人混みや商店街の雑多さが生み出す色・柄の洪水の中で、違和感やシンクロニシティを意識しながら画を作る」という色彩設計重視のディレクションだったので、真っ青の中に少しだけ緑色を混ぜてみたりした。
年の瀬、商店街を足早に行き交う老若男女の服装は、黒・ベージュ・カーキなど落ち着いた配色のものばかりだけれど。街全体を風景として見ると交通標識やカラーコーン、張り紙、看板などがグレー色の都会に雑多な華を添えている。あらかじめロケハンしておいた場所までカメラマンの元重君とKOTA君を連れていき、スタイリングしたコーディネートや真っ青の顔面がマッチ/ミスマッチするポイントで画面を構成していく。
北区のはずれにある駅前のロータリー。少し前まで高い建物なんて何も無かったこの場所で、すべての文脈を断ち切るかの如く突如建て始められたタワーマンション。青いネットでラッピングされた建設中の巨大ビルディングは、賑やかな商店街のあたたかさを全て覆してしまいそうなほどに、硬く冷たい。しかし、東京においてはこの断絶すらも日常風景の一部であると思う。すっかり変わってしまった渋谷の桜丘エリアを例に挙げるまでもなく、この十条や立石、赤羽などにも再開発と言う名の暴力が及ぼうとしている。いずれ張りぼての洗練が街を覆い隠し、雑多な看板や時代遅れのオンボロ居酒屋はグレー×ベージュの無彩色に取って代わられてしまうのかもしれない。別にニヒルやアイロニーを気取っているわけではないし、考え方によっては、この無理矢理感こそが「Tokyo」という都市が内包するダイナミズムの正体なのであろう。だとしても。仮にそうだとしても、この都市が失ってきた色彩の数はあまりにも多すぎる。
樹木一本を描くにしても、焦げ茶色単色で幹全体を塗り上げるのではなく、茶色の中にある緑や青や黄色や紫を読み取るような視点。土田先生が教えてくれたこの事は、今も自分の思考回路のどこかにきっちりと組み込まれているような気がする。僕が派手な色・柄の洋服ばかり作るのは、どこかで街全体の遠景から着想を得ているからかもしれない。安直な洗練は、単色のローラーで塗り固められたキャンバスのようだ。作られた多様性は、パズルのピースを組み合わせた宮下公園のようだ。それが面白いか面白くないかは、人によるだろう。しかし僕は筆を持っている。下手でもいいから、フリーハンドで塗ることの中にだけ楽しみを感じているんだと思う。
1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。
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