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STORY

買い物って何だろう


過日、2023年12/10(日)~11(月)の二日間で開催したNEJI初のポップアップストア「ねじ店2023」は無事に終了しました。ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。心より御礼申し上げます。本コラムでは、その会場の様子をざっとご紹介。


江戸川橋にある山下英介氏のアトリエ「Atelier Mon Oncle」で開催した12/11(月)の外観。僕が大好きな漫画家・電気こうたろう氏に描き下ろしてもらった漫画をポスターにして皆様をお出迎え。


二日間ともに手伝ってくれた後輩のワタナベ君。彼とは長い付き合い。20年もの間、僕の相手をし続けてくれる超・貴重な存在。頭がいいし気も利くので、僕の阿呆な抜け目をいつも素早く埋めてくれる。ワタナベ家では年明けに息子くんの受験を控えているので、マスク姿でインフルエンザ対策しながら頑張ってくれた。本当にありがとう。

それにしても築70年の古民家を改装した「Atelier Mon Oncle」は、雰囲気抜群。ちょっとした不便さも含めて最高の空間。こんな土間で石油ストーブを炊きながら、「ぼくのおじさん(少年期と青年期の間に多大な影響を受けた人、カッコいい大人の意)」とじっくり語り明かしてみたい。ちなみに、僕にとっての「ぼくのおじさん」は伊丹十三であり中島らもであり町田康でありジム・ジャームッシュでありクエンティン・タランティーノでありフランソワ・トリュフォーでありアルフレッド・ヒッチコックであり立川談志であり…。今の僕はその頃の彼らよりも(たぶん)年上になってしまったのだろうけれど、そういった「永遠に追いつけない大人」こそが、きっと「ぼくのおじさん」なのだろう。







フリーペーパー「ねじ紙」の上にぽつんと乗せてあるのは、前日の夜に菊川の空き地で拾った鉄製のねじ。なんとなく巡り合わせを感じて「これ、きっと俺に必要なパーツなんだと思うな。大切にしようと思う」なんてワタナベ君と話していたにもかかわらず、翌日の江戸川橋搬出時にはどこかその辺に落っことしていた。それを見つけたワタナベ君が「これ、大事なものだって昨日言ってたばかりじゃないですか!」と叱りながら拾ってくれた。



前日の菊川では、ウェルカムドリンクとしてホッピーを配りながら重衣料を売るという変な演出。嘘偽りのない自分の趣向をそのまま形にしたら、来場者の多くから寄せられた「とても鶴田さんっぽい、ぽい」の声。それが、きっと今の自分の姿かたち、フォルムなのだろう。ホッピーが功を奏したのか皆様がピュアだったのか、狭い店内で半強制的に相席になった初対面のお客さん同士が自然に会話し始めたり、終始和やかなムードで墨田区の夜は更けていった。

都内でも辺鄙な場所、そして(土)(日)ではなく(日)(月)という偏ったスケジュールで開催したにも関わらず、NEJIに何かしらの期待を寄せて足を運んでくださった皆様に感謝するばかりです。しかも、多くの方々(というか、ほとんど全員?)はお買い物までしてくださった。おかげさまで、なんとか年を越すことが出来そうです。


とかいっておきながら、イベントが済んで多少はホッとしたのだろう。年末にかけて、僕は幾つかの買い物をした。



スコットランドの巨頭・Joshua Ellisのカシミアストール、Parabootのクラシックモデル・YOSEMITEのトレッキングシューズ、オーストラリア製の変柄ニットベスト。そのどれもが、決して珍品・希少品の類ではないと思う。先の二つは古巣のInternational Gallery BEAMSで購入した。ストールは「ねじ店2023」にも足を運んでくれた変態洋服屋のタムラさんと、靴はちょうど開催中だったトランクショーに販売応援として来ていたRPJの敏腕営業マン・ダイダさんと世間話をしているうちに、ふと目に留まって即購入した。


ニットベストは近所のリサイクルショップで見かけて購入した。タグ付きのデッドストックだった、と言われてもピンとこないような未見のネームタグ。部分的に3D状で編み込まれたニッティングとトライバルな配色、凝ったボタンに惹かれてしまった。


ニットベストはさておき、ストールとシューズは「ずっと欲しかった」わけでもないし「気に入るものを探していた」わけでもない。これまでにそれぞれ二回づつくらい購入していてもおかしくないほど買うチャンスなんていくらでもあった。たしかにYOSEMITEに関しては、中学生の頃には高価すぎて手が出なかった憧れのGALIBIERを回春ショッピングで済ませたと言えなくもないけれど。ただ、やっぱり買い物には旬がある。バトンがある。それは「値崩れしないブランド品やヴィンテージアイテムをじっくりと品定めし、未来への投資として買う」という意味では全くなくて、他人から預かったお金を「いつ、どのようなタイミングで誰に払うのか」程度の意味でしかない。「宵越しの金は持たない」なんて威勢のいいことは言えないけれど、金離れは良い方がいい。先日、アートギャラリーを経営する友人と酒を飲んでいてこんな話になった。

「お父さん、世界で一番大事なものってお金でしょ?」「お金はただの道具だよ。もちろんお金は大事だけれど、お金そのものよりもずっと大事なのは稼ぎ方と使い方だよ」

父娘の会話で、友人はそう答えたらしい。僕も大いに賛同した。最近の為替や物価の変動を見ていると、お金というものが絶対値ではないことが容易にわかる。ポケモンカードもアンティークウォッチも(もちろん紙幣も)、いつか紙切れや鉄クズ同然になる日が来るかもしれない。それはそれで仕方のないことだ。ただ、もしもこれまでに購入し貯め込んできた私財がすべて無に帰してしまったとき、その過程としてのお金の払い方次第では、本当の意味で「何も残らない」のだろう。

少し前に、あるアーティストの話を聞いていると「物々交換」の話が出てきた。大いに共感できるところがあった(勿論、学費や介護などお金でなければ対価を払えない仕組みがあることは知っている)。そして、仮にお金をほとんど使わない生活になったとき、僕は隣人から味噌や米をもらう代わりに何を作ってあげられるのだろう?とも思った。この夏から秋にかけて、仕事でたくさんの撮影・ヴィジュアルメイキングを手掛けてきた。そこに関わった人々は必ずしもお金持ちではなかったため、制作予算80万が動き回るような案件は何一つなかった。けれど、皆がそれぞれの持っている能力や個性や才能を持ち寄って存分に発揮した結果、果たして幾らで作り上げたのか見当もつかないような風景が姿を現した。




僕は、自分が他人から与えられて当然の人間だとは思わないので、自分が持っているものはいつでも差し出したい。そして、何かを持ち寄ってくれるメンバーを一人でも多く増やしたい。「もちろんお金は大事だけれど、お金そのものよりもずっと大事なのは稼ぎ方と使い方だよ」と心の中で繰り返しながら、さぁ来年は人のために何を作り上げることができる人間になろうか。あぁ、今夜はクリスマスイブ、暮れて17時。まずは家族のために夕飯を作るところから始めてみようか。そろそろ買い物に出かけなきゃ。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。