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STORY

足首の季節


「レザーシューズの素足履きやショーツスタイルはゴールデンウィークが明けてから」なんてことをファッション業界(主にドレスクロージングの世界)ではたまに耳にするけれど、一般的な季節の捉え方としては実にごもっともな意見だと思う。しかし、僕は気分さえ乗ってしまえば極寒の冬でも素足でエスパドリーユを履いてしまうような阿呆であるから、あくまでも「四季の移り変わりに合わせて装う立派な大人にとって」という鍵括弧付きで「レザーシューズ素足履きやショーツスタイルはゴールデンウィークが明けてからの方が自然だ」と、子供の脳みそで受け止めている。そして、2023年5月上旬。今年初めての「レザーシューズ素足履き&ショーツスタイル」。





ゴールデンウィーク明けとはいえ、夜になると肌寒い。ショーツ&ローファーの足元とは対照的に質感豊かなCLASSのジャケットを羽織って出かけた。10数年前に購入したこのジャケットはチクチクと毛羽立った独特の表面感で、なんとアザラシ毛が混紡してある。PARABOOTのMICHAEL PHOQUEもまだ現行で買えた頃、ともかくアザラシが禁猟になるよりもずっと前に織られたデッドストック生地を使った一着。明らかに「冬素材」だが、この日のボトムスになんとなくマッチするような気がしたので、朝の気分で即興的に羽織ってきた。裏地が付いていることもあり、当日の肌当たりはそれほど暑苦しくもなかった。





足元はKUONのショーツ+ALDENのアンライニングコードヴァンローファー。綿100%チェック生地の上から刺し子ステッチを施したこのショーツ、極太&膝下丈で春のショーツデビューには打ってつけの肌露出。かなりのワイドシルエットなので風も通るし、適度に涼しい。何より、それほど薄着ではない時期のトップス(アザラシを着る必要はさすがにないと思うけど)を受け止めるボリューム感が心地よく、逆にヌーディーな膝下との対比も面白い気がする。以前にも書いた通り、個人的に「ローファー用の見えないソックス」が大嫌いなので、僕にとっての「素足履き」は文字通り「素足で直接、靴を履く」ことを意味する。「汗は?匂いは?」と聞かれることもあるが、一日履いたら翌日に風通しが良いところで直射日光を避けながら干してあげるだけで十分除菌されるような気がするし、僕にとってはべちゃべちゃに汗をかかない5月こそが「素足履き」の季節、逆に真夏はほとんどやらない。





インナーは同じくKUONの半袖レーヨンシャツ。クレープ生地を泥染めした質感が着る人を程よくアーティスティックに見せてくれる(ような気がする)し、このシャツのおかげで「アザラシ毛」「馬革」「泥染め」「刺し子」と、ワイルドな異素材コンビネーションの振り幅がぐっと広がった。リラクシングなシルエットも楽だし、着ていて実に快適だったと思う。




一方で5月の別日、足首を出すどころか逆に膝下まで靴で隠したスーツスタイル。おととしくらいから個人的に再燃していたテーパードパンツモード。90’s ROMEO GIGLIのスーツはボックスシルエットの上着に裾幅18cmテーパードパンツがセットされていて当時のムード満点なんだけど、2023年らしい新鮮なバランスをどこかでぼんやりと求めていた。そこに、キッシーの店「ROKUMEICAN」で先日買ったばかり(ブランド不詳)のウエスタンブーツがぴったりフィット。パンツの裾幅が狭すぎてむしろブーツのシャフトに楽々インできる、というブーツカット殺し。




シャツは先ほどと同じKUONのもの。90年代のスーツ襟にうまく乗る小ぶりなオープンカラー。フランス産メッシュのベルトは6~7年前に購入したRENOMA。この2~3年で完全復活を果たしたこの手のメッシュベルトは「合わせる靴を選ばない、他のベルトは要らない」なんて、世間的には黒ニットタイみたいな扱われ方かもしれないけれど、個人的にはウエスタンブーツにコーディネートするくらいがちょうどいい。カウボーイの気合をすべて吸い取ってしまうようなノンシャランは、やはりフランスアイテム故の佇まいか?泥染め、メッシュ、ウエスタンブーツ。流行語大賞には絶対選ばれないけれど自分の中では今年の新語大賞をあげたいような気持になる、どの時代にもぴたりとハマらなかった言葉同士の組み合わせ。それが今の自分。




足首が見えるのと見えないのとでは、やっぱり全体のバランスが劇的に変化する。ショーツ姿で生の足首が見えているとトップスにはボリューム(シルエット、素材感の両面の意味で)が欲しくなるし、ウエスタンブーツで足首が隠れているとスーツスタイルでも襟元を開けたくなる。つまり、僕は「首」「手首」「足首」の三か所を同時に肌見せすることができない単細胞だということになる。だってそうでしょ、普通はゴールデンウィークが明けたらクールビズが始まって、ビジネスじゃなくても「半袖開襟シャツ」+「ショーツ」+「素足履きのスリッポン」なスタイルが街に溢れかえるというのに。そういえば18歳の夏、たしか「黒のバミューダショーツ」+「エナメルのモンクストラップ素足履き」+「エポレット付き半袖シャツ(ターコイズブルーだったかな)」を着ていた頃も+「黒のナロータイ」で首は隠したままだった。全ての首を抵抗なくさらけ出せる大人にいつかなりたいけれど、そのために必要なのはたぶん「日焼け」なんだと思う。足、白いもんなぁ。でも、やっぱりインドア派なんだよなぁ。泳ぐのも屋内プールだもんなぁ。今年の夏も、色、白いままなんだろうなぁ。僕の足首。たぶん、ショーツにウエスタンブーツを履いてる気がする。トップスも長袖だろうね、きっと。



Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。