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STORY

らしいパンツ(らしい)



僕はセンタープレスの入ったパンツが好きだ。しかし、その一方で「今の気分にフィットするパンツを探す」のは難しい。そもそも普段から特定のアイテムを血眼になって探したりしない(めんどくさがりでリサーチ力弱めの)僕の中には「なんかカッコいいパンツないかな~」という程度の漠然としたイメージしかないので、なおさら見つからない。実際、きちんとしたパンツを作るのは難しいのだろう。サヴィルローのテーラーでもパンツは他所に外注していたりするので、ジャケットやブルゾンに比べて頼りになる生産背景が少ないのかもしれない。ということで昔からセレクトショップでドレスパンツと言えばイタリアやフランスの専業メーカーに頼ることになっているけれど、今では創業50年とか70年を超えるような老舗パンツメーカーでも売れ筋の中心がジャージー素材やドローコード付き、裾上げ不要のクロップド丈モデルにシフトしまくっているので、なんともはや、僕にとっての「当たりモデル」にはなかなか出会えない。国内では五十嵐トラウザーズのように、テーラードパンツ専業で頑張っているところもあるんだけどね。




ということで、気に入るパンツがあると僕はできるだけ即買いするようにしている。この1~2年は、3色買いしたInternational Gallery BEAMSのオリジナルパンツをよく穿いていたけれど、つい先日、そのうちの一本がフロントジップ破損のため故障者リスト入り。そんなパンツ不足の中で見つけた古着のパンツがイギリス製・Aquascutamのトラウザーズ。デッドストック、いかにも頑丈そうなキャバルリーツイル、乾いたダークブラウン。






ウール100%でも畝がしっかりと立ったドライなツイル織、ダブルフック式の長い持ち出し、カッチリとしたミシンステッチはいかにもイギリスらしい。LIGHTNINGのピンロック付き棒ジップが使われているけれど、結構古いものなのかしらね?仮に1970年代のものだとして、本国のフラッシャー脇に付けられた日本国内用の値札には「¥68,000-」と書いてある。高っ!!!当時の時代性や物価を考えると、超ハイプライス。「舶来品」=「今で言うインポート品」の敷居が高かった頃、払い下げ品があるアメリカものに比べて英国ものは高級品・贅沢品・憧れの的だったに違いない。




股上27.5㎝、ノープリーツ・ワンダーツの細長いウエスト周り。フラシの状態で裾幅28㎝のバギーシルエット。ずっと探していたわけではない(そもそも僕はものを探さない)けれど、「あ、そーそー、これくらいのヤツ、今ならちょうどいいかもね」と納得できる感じ。サイズがやや大きかったので、ウエスト~ヒップを2.5㎝詰めて「ベルトで固定もできるけど、ちょい腰穿きもできる」くらいの寸法に直した。





そして、股下。新品やデッド品パンツの醍醐味は裾上げにある。フラシの状態で股下93㎝のたっぷり丈を生かし「厚めのダブル」で裾上げすることにした。股下を78㎝だとして、残りの生地は15㎝。もうこうなったらギリギリまで厚ぼったく折り返してやろうとダブル幅6.5㎝に指定したところ、細身の栗蒸し羊羹みたいな長方形が出来上がった。仕上がりを見て「これ、正解なのか不正解なのか、いまいち分からんな」と思ったけれど、まぁいっか。細身のレザーシューズと合わせてみよう。

そしてもう一本、同じく古着で見つけたDickie'sのデッド品。ポリエステル85%、WOOL15%でストレッチ性のある生地。ぱっと見はツイル織に見えたけど、触ってみたらジャージー素材だった。




紙タグにはしっかりと「Dickie's knits」=「ニット、すなわちジャージー素材」と書いてある。ヒップには「BAN-ROL」というウエストバンドのメーカータグまで付いている。四角いLポケ、幅広のベルトループ、細身のセミフレア、ワイン色。先に紹介したAquascutamのパンツと同じ年代の匂いがビシビシに感じられる。そこまで珍しいパンツではないと思うけれど、気に入った。




この二本のパンツを前にして思う。ハイクオリティもローフィデリティもどちらもイケる口の僕は、やっぱり「なんかカッコいいパンツないかな~」という程度の漠然としたイメージでしかモノを探さない、探せない。実際に英国製の高級テーラードパンツと米国製のチープなワークパンツではベクトルが違い過ぎて、同じ路線では探しようもない。国も値段もスタイルも、なにひとつ共通項はない。と思いきや、一つだけあった。「どちらもセンタープレスが入っている」という点。そして、その奥にもう一つ見つけた。それは「センタープレスが取れにくい」という点。ガリガリのキャバルリーツイルも、タグに「NEVER NEEDS IRONING」と書いてあるポリエステルも、結局はそういうことか。つまり、割と雑に穿いてもピシッと見える。結局、めんどくさがりな僕のところに集まってくるアイテムはそういうものだってこと。

洋服を着続けていると自分の性格が繁栄されたスタイルが自然と形成される、って実に人間らしい。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。