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STORY

カラー・オブ・Winter


2022年10月15日、都内某所のスタジオにて。

モデルを引き受けてくれた5人と、カメラマンの太希さん。みんながぞろぞろと集まってくる。AM10:00。僕は用意してきた5人分のコーディネートをラック上で組み合わせながら、隣にいたゆうとにポロシャツのスチームがけをお願いする。ほかのメンバーは赤い背景紙をセッティングし始めた。今日はイタリア製のニットポロ、フランス製のレザーグローブにフォーカスしたルック撮影の日。





土方に持たせるつもりで、うちの娘が小さい頃一緒に寝ていたクマのぬいぐるみを用意してきた。スタイリングの中に差し込んでみたところ、ちょっと笑えるくらい似合っていた。今回は5色展開のニットポロと4色展開のレザーグローブがお題なので、強い配色、色の洪水の中に無関係な素材感が欲しかったのだ。とっかかりは何でもよかったし、ぬいぐるみがハマってくれたおかげで気が楽になった。




こたろうは、僕や太希さんの指示以外にも自ら積極的にアドリブのアクションを入れてくれるので頼もしい存在だ。弁当食うのが遅い。彼はどことなくイギリス人みたいな顔をしているので、偽ブリティッシュなコーディネートを組んでみた。おじさんおばさんみたいな感じ。





ゼビアはよく喋る。ずっと喋ってる。撮られている間も喋ってる。ときどきぴたりと止まる。その瞬間、キマッている。太希さんはすかさずシャッターを切る。それにしても僕の私物のスーツが良く似合う。似合い過ぎて、ちょっと悔しいくらい。





ゆうとにはさっきまで使っていたスチーマーを渡し、「これをマイクだと思ってプレスリーみたいに歌ってみて」とお願いした。ちゃんとやってくれた。コーディネートは緻密に組み上げるし太希さんとは事前にイメージを共有するんだけど、現場の即興で思い付きを形にしていく作業は楽しい。決めておいたゴールに執着しないというか、ゆるやかに張りつめている感じ。PM15:00。陽が傾くのが早くなる季節のせいで、自然光が差し込むスタジオに西日が過剰に入り込んできた。思案の結果、北側の窓に付いている遮光カーテンを西向きの窓に移して二重にしてみたところ、なんとかなった。






木村は待ち時間の間中、黙ってゲームばかりしている。目出し帽をかぶせたところ、ゲーマーから一転、殺し屋の目になったので、傍にあった機材入れを二つ持たせて銀行強盗みたいに作ってみた。僕は「ガイ・リッチー映画みたいだね」と言って笑った。木村も少し笑った。





それにしても、今回のポロシャツとレザーグローブは質がいい。それぞれがメゾンブランドのOEMを手掛けるファクトリーなので、当然のように、いい。しかし、いいものを「いいものですよ」と言って売るだけならメゾンストアに行けばよいだけなので、僕らはセレクトショップとしてもう少しクセやアクのようなものを付加したい。形のいびつさも、色のエグ味もぜんぶ、自分たちの内側から湧き出たものを鍋に放り込んでかき混ぜたい。吹きこぼれるまで煮立ててみたい。そんなカラー・オブ・Winter。8時間に及ぶ撮影を終えるころ、外はすっかり日が暮れて、闇。さっきまで極彩色の衣装をまとっていた若者たちは、それぞれの私服に着替えると黒の中へと消えていった。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。