1820年創業の老舗であるAlbert Thurstonのブレイシーズは前職の売り場でも取り扱っていたし「絶対にここでしか買えない何か」というわけではなかったが、なんとなく気が向いたのだ。最近ではクリップ併用の適当で合理的なタイプをよく見かけるが、これは六つボタン留のクラシックスタイル。T&A社やB.B社など、英米の古参ブランドの為にもブレイシーズを供給するAlbert Thurstonなので、せっかくならばこれくらいのものを、と思った。ストラップ部分も楽ちんなエラスティックではなく黒のモワレ織り、ボタン留めもレザーではなくブレードエンド(組紐)仕様という、最も古典的な出で立ち。普通ならば百貨店のフォーマル売り場にも今どき並んでいるかどうか、という正装モデルが何故か熊本の小さな洋品店に並んでいるところにも「有田さんっぽさ」を感じて牽かれたのかもしれない。
「とは言えお前それ、いつ使うの?燕尾服でも着るんだっけ?」という老婆心は、僕のようにアホな洋服屋にとって愚問でしかない。結局、クリップ併用のストレッチサスペンダーなど中途半端なクラシックアイテムではシーソーの片側に乗せてもファッション的バランスの取りようがないわけで、逆側の席に座るのはストレッチ混の短丈ピタピタスーツくらいがイイところ。むしろオペラパンプスとかヒダ胸のダブルカフスシャツとか、超フォーマルアイテムの方が大いにふざけて着るにはちょうどいい。そういえば、いま書きながらフッと思い出したけど、僕は二十歳の頃にUAの原宿本店でCheaney製の内羽根式キャップトゥを買った。
23年前のCheaney。当時でこそ4万円台だが、今買うと倍に見える面構え。アッパーの革質も充分上等で、現行のものよりむしろ良い。長年ほったらかしていた割には元気な顔をしていた。ライニングやソールが黒ならイブニングでも堂々と使えるスタイル。担当してくれたスタッフの人には「ドレッシーなスーツスタイルに最適ですよね」と言われたが、僕は普段から裾をくるぶし丈でカットオフしたレギュラー501(インディゴ残2割くらいの水色)にこの靴を合わせて履いていた。一年後のビームスの内定式にも、そのボトムスコーディネートにバスクシャツを着てスカーフを巻き、上からネイビージャケットを羽織って出かけた。周りの同期はみんなスーツスタイルだったけど、(僕が入社前からお洒落だと思っていた)とある先輩には褒められた。とはいえ、その頃はまだドレッシー&スポーティの概念を自分の中で消化できていなかったのだと思う。入社後に、もう少し小綺麗なコットンパンツやカシミアのセーターとコーディネートして出勤したら「靴が固いよ、お前」と先輩から何度も注意され、その時に初めて内羽根式キャップトゥがタキシードに合わせられるくらいドレッシーなスタイルのものだと知った。二十二歳の春。後になってみると「逆に言えば、だからこそボロボロの501とはマッチしていたのだろう」とも思える。
ということで、この「どフォーマルなブレイシーズ」はGUIDIのブーツや薄汚れたキャンバススニーカー、メッセージ性強めのプリントTあたりにピッタリだろうなー、なんて今からちょっと楽しみにしている。…というかさ、お前さっきからずーっと洋服をおふざけで着る前提で話してるけどさ、何なの?一体。って?
三つ子の魂、百まで。四十三歳の冬。正しいカッコをするだけがスタイルじゃない。ファッションの可能性をすべて捨てるほど人生は忙しくないと思うよ。














