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STORY

B面ソファ

10年ほど使ったソファに、いよいよ寿命が近づいてきた。とはいえ、それはソファ本体ではなく座面の張り地の話。ブルーノ・マットソンが1976年にデザインした天童木工製ソファをベースに、オーダーで特別に張って貰ったヨハンナ・グリクセンのファブリックがボロボロに擦りきれてしまったのだ。


そろそろ張り替えの時期か、と半ば諦めかけたものの…代わりになる張り地のイメージも特には無く、何よりもこのファブリックが気に入ってるし愛着もある。そこで、フッと思い付いた。

「裏返せばいいじゃん」

そう、ひっくり返せば裏面は新品同様なのだ。さっそく、座面を本体に固定するストラップの位置を逆サイドに付け替えることにした。リッパーでステッチをはずし手縫いで取り付ける。黙々と作業を続けること1時間。

ほら、新品同様。強いて言うならば、クッションを張り地に詰めるための(本来は裏側に隠れていた)ジップ口が表に見えてしまうこと。しかしそんなことよりも、ちょっとした手作業を施しただけで、このソファを向こう10年また使うことができる喜びの方が断然に勝る。ぜーんぜん気にならない。


イギリスでは、襟を付け替えて長く着る知恵がルーツと言われるクレリックシャツのことを「Poor man's shirt」とか呼ぶらしい。「貧乏でけち臭い」って意味だろうけど、チャールズパッチの例もあるし、モノを長く使うこと自体は美徳としながらも敢えて意地悪な言い方で自虐的照れ隠しに持ち込もうとしてるような気もする。

ともかく、裏面とはいえ新品の張り地は気持ちいい。サステナブル云々という話をここでするつもりはないけれど、根本的には何かと言えば「手縫いで直してでも長く使いたいと思えるモノを10年前に選んでいた自分の目」にちょっと感謝するような感覚なのだ。やっぱり「好きだ」という感情こそが、何事をも継続可能なものにしてくれると思う。つまり、愛だよ、愛。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、ビームス退社。東京・外苑前のセレクトショップMANHOLE内にある企画室「NEJI」(https://manhole-store.com/neji )の主宰としてバイイング/販売はもとより、執筆や商品企画、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。