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STORY

黄桃の味

例えば同じ店が提供する同じ味のはずなのに、昨日と今日とでは全く違うものに感じる、みたいな体験って皆様にもきっとおありのことだろう。いやね、厳密に言うと「昨日と今日とでは気温も湿度も違うし、調理するのが別人かもしれないし、串カツの揚がり具合なんてそりゃあ毎日違うだろうさ」なんて意見もあることは承知の上で。しかし、それは作り手の問題(いや、問題っつっても、それに対して批判の視点で言っているわけではない、昼or夜、空腹or満腹とかもあるし)。

アッバス・キアロスタミの映画作品に「黄桃の味」というものがある。2019年の8月に、某SNSに書き散らかした文面によると、当時の僕はこの映画に対して次のような感想を持ち、記している。

クルド出身の兵士、アフガンの神学生、自然博物館に勤務する老人。同乗者や会話の内容を変えながら、主人公の車は土と埃にまみれた、曲がりくねった道を何度も堂々巡りする(キアロスタミ作品にはしばしば、この堂々巡り、同じ道の繰り返しが出てくる)。助手席から撮った主観映像が映画の大半を占めているが、ラスト20分。主人公が車から降りて、自らの脚で駆け出していく。人に会うために。そして劇的なラストシーンへ。もしも人生にうんざりしたのならば、試しに観てみてください。あ、もちろん、してなくても。

さぁ、それから2年が経って、今の僕には「黄桃の味(英題:Taste of cherry)」がどのように感じられるのだろうか。ラストシーン直前に主人公が食べたなにげない黄桃の味の発見、その後の行動や人生観の劇的な変化。「主人公が車から降りて、自らの脚で駆け出していく」この主観を(鑑賞者本人が)どちら側に持ってくるかで、黄桃の味は如何様にも変わるものだろう。それは甘く幸せなものか。それとも酸っぱくて苦笑いするようなものか。なんてことを考えているうちに冷めてしまった串カツを一口だけ食べて、チューハイを飲んだ。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、ビームス退社。東京・外苑前のセレクトショップMANHOLE内にある企画室「NEJI」(https://manhole-store.com/neji )の主宰としてバイイング/販売はもとより、執筆や商品企画、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。