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STORY

1978年のハイボール(下)

 

「で、どうよ最近の調子は?」「ま、良からず悪からず、フツーって感じだね」「そっかそっか…あ、スミマセン、レッド・アイをひとつと…お前は?」「あ、ビールで」「じゃ、ビールをひとつ。あと灰皿貸してください」「よくレッド・アイなんて頼むよな、お前。今時いんのかよ?そんなヤツ」「なんか村上春樹っぽくない?」「知らないよ。俺そんな好きじゃないし」「そーいえばさ、ちょっと前だけどアレ流行ったの知ってる?」「何?」「カップ焼きそばの作り方」「あー、村上春樹とか太宰治とか、有名作家の文体で焼きそばの作り方を説明するやつね」「そーそー。最初はツイッターかなんかで盛り上がって、結局出版まで漕ぎつけて大ヒットだもんね。いーなー、あーゆうの。コツさえつかめばさ、文体を真似るくらいできるじゃん?俺でも書けそー(笑)とか思っちゃったりして」「そんな簡単なもんじゃねーだろ」「そーかな?」「いや、真似そのものというよりも、カップ焼きそばを作るっていう弛緩ムードが太宰治とか漱石みたいな神経質と結びついたところが盲点で面白かったわけでしょ?」「太宰が焼きそば作ったら、入湯じゃなくて入水になっちゃう」「つまんねーこと言うなよ」「まぁ、でもたしかにね。文体を真似るだけじゃ価値ないもんな。それ以外の発明とセットになってないと」「そのまんま真似て書いても誰も読まねーよ、というか本物の村上を読むだろ、フツーに。そもそも、たぶん真似にすらなってない、もっと劣悪なもんだと思うよ、そんなの。でもさ、俺の知り合いで洋服屋やってるヤツが言ってたけど、いまや商品紹介のブログとかあーゆーのもパクリ上等の世界というか、日常、そーいうもんらしいよ」「へー」「個人経営してるそいつが書いたブログの一部が大手ショップのホームページに無断コピペで載ってるんだって」「たしかに、自分が書いた文章って、自分が見るとすぐ分かるもんな」「まぁ、普段から他人が書いたブランドリリースのコピペとかで成り立ってるようなもんだからさ、そーいう更新頻度のブログって。追われて、もはや無感覚になってるのかもね」「ザ・作業、って感じだね」「で、パクった本人だけは自分で書いた気になっている、っていうね」「でも、それ文章だから丸っきりパクりだって分かるけどさ、もっと曖昧なジャンルもあるでしょ」「例えば?」「いや、ファッションだとさ、デザインとかコーディネートとかスタイリングとか。まぁ、音楽でも建築でも映画でも、なんでもそうなんだろうけど」「たしかに文章のコピペよりは曖昧だけど、見る人が見ればあからさまに分かるよな。つい最近も、と或る有名スタイリストの人がSNSで書いてたけど、自分のスタイルのパクリをほかの誌面で見ると気分悪いって」「そりゃそうだ。身を削ってスタイルを生み出した本人から見ると、怠けて金儲けしてるように見えるのかもね。あと単純に、気持ち悪い」「アマチュアの人がやるならまだしも、ページを任されてるプロがやると特にそーかもね。でも、その人も書いてたけどさ」「うん」「オマージュ、ってあんじゃん?」「あー、物は言いようだよね。でもオマージュを捧げるほど、リスペクトがあるかどうかなんて分かりっこないからね、ホントのところ」「鼻ホジりながら『オマージュっす、サンプリングっす、リスペクトっす』て言っといて…」「サラっと右クリック」「そーそー」「いずれにしても、登録商標みたいに白黒がつかないグレーゾーンが広いから、疑わしきは罰せずというか、なんも言えないよね」「実際『誰からも影響を受けない』なんて出来ないしな。線引きが難しい」「いっそ『僕、〇〇をパクッてます!』ってはっきり言えばいいのにね。それを『自分独自のセンスです!』みたいな顔するからムカつくんでしょ」「そういう意味では、文豪が焼きそば作るアレは『パロディ』なんだよね。真似てるんだけど別物にしちゃうっていう」「コロッケの物真似みたいな感じか」「まさに。『おふくろさん』を歌う森進一が絶対あんな感じじゃないって、みんなが知ってるから成立する世界(笑)」「本物があんな感じだったら、とてもマズイんだけどね(笑)」「『物まね王座歌合戦』でやったから一応物真似ってことになってるけど、実際はオリジナルの特徴をエフェクターで過剰にねじ曲げてブーストさせたような、ものすごくレベルが高い創作なんだよね。逆に、真剣に真似てるのに絶妙に真似しきれていない物真似って、何となくツラくて周りも困るからさ。触れられない感じで」「素人さんがカラオケでやれば『おぉ~』ってなるけどね、でもそれで金は稼げないよね」「画家もそうだけど、なんでも最初は模写とか物真似から始まるじゃん?アマチュアのうちにたくさん練習して物真似上手になっておいて、プロになったらオリジナルを歌おうってことだよな」


「漫画家の、とり・みき氏の言葉らしいんだけど、パクリとパロディの違いを見事に言い得た一文があってさ」「へぇ、なんて?」「『元ネタがばれると困るのが盗作で、ばれなきゃ困るのがパロディなんだ』」「なるほど、ものすごく的確だな」「でしょ?焼きそばの作り方は小説読まない人が読んでも全く笑えないもんね。元ネタが分からないと困るんだよ」「そーいえば、今日アレだよな、なんか『読んでほしいものがある』みたいなこと言ってなかった?お前」「あ、あぁ…アレね。いや、いいんだよ、もう」「なんだよ、歯切れ悪いな。まさか村上春樹風の短編でも書いてきたんじゃねーの?(笑)」「まっ、まさか!そんなワケないじゃん!シャワー浴びた後にサンドイッチ食べるみたいな、カッコつけた感じの…書くワケないじゃん、俺が?まさかね(笑)」「冗談だよ、なんか急に声デカいぞお前」「ははは、俺が書くなら…もっとパロディ的にするよ、ひ、批評精神とユーモアたっぷりの!」「へぇ、例えば?」「『ねじまき鳥黒く塗る』とか『海辺のタフタ』とか『タンス・タンス・タンス』とか…」「全部村上じゃねーか」「そんなことないよ!他にもあるし…『耳にピアス』とか」「当たり前だな」「『掻きたい背中』とか」「孫の手でも買えよ」「『牛の膵臓をたべたい』」「ホッピーも飲みたくなるね」「『推し、萌ゆ』」「もーえてもーえてもえちゃってー」「『下町ソケット』」「夢もスケール感もないな」「『バカな壁』」「ぬかか何かで出来てんの?」「『世界の中心でハイ!!と叫ぶ』」「元気いっぱい過ぎるだろ…まぁ、いーけど。あ、次も同じのでいい?」「え?」「おかわり。レッド・アイでいーの?」「いや、変える。あんま美味しくなかった。なんかぬるいし」「そーなんだ(笑)」「いずれにしても、完璧なレッド・アイは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」「いや、だから村上じゃねーかよ」

※この二人はあくまでも架空の人物です

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。