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STORY

サマームード

なんだか、夏らしいことを何もしないうちに、2021年の夏がどこかへ過ぎ去ろうとしている。じゃあ、コロナがなければ「キャンプー!」だの「音楽フェスー!」だの「ビーチー!」だのと、露出魔の衣服を身にまとって半狂乱になりながら天日干しになる為に自ら海山へノコノコ出かけ「夏らしいこと」にどっぷり耽るのか、というとそーでもない。序盤から何か歪んでんなぁ…。いや、悪意はありません、もっぱらインドア派な自分ではやらない、という話。

「夏を感じる」には、二種類があると思う。どうせならより暑く(熱く)感じたいとはしゃぐか、少しでも涼を取りたいと願うか。圧倒的に後者である僕は、ある日なんとなく食器でも入れ換えてみようかな、と思った。棚の奥から出てきたのは氷ポケット付きのデキャンタ(左)、たぶん何かしらのお祝いで人から頂いたものだと思う。窪みに氷を2~3個入れておけば、冷酒が冷たいままで飲める(けれど一度も使ったことがないことに今気づいた)。10年以上前にヨーガンレールで買い求めた再生ガラスピッチャー(左から2番目)は、夏の来客があるとコレに自家製のサングリアを容れて友人たちにふるまっていた。それも、もう最後は3~4年前の話。しばらくほったらかしにしていたので、とりあえず洗って窓際に置いてみたところ、濡れたガラスのつるんとした曲線が瞼を刺激したのか、それだけで涼しさを感じた。


右端はインドの理化学製品メーカー「ボロシル/BOROSIL」社が製造する、タフな耐熱グラス。直火にも掛けられるらしい。数ヵ月前、品川で開催された「PATH THE BATON MARKET」にて入手したもので、訳あり品のため通常よりも安くなっていたが、どこにワケがあるのかは聞き忘れたし、使っていても分からない。晩酌の金宮ソーダ割りもインスタントを熱湯で溶かしてから(ここで耐熱性が生きる)大量の氷をぶち込んで作るアイスコーヒーも、最近はもっぱらこのグラスで飲んでいる。サイズや厚み、グラスに唇を付けたときの口当たりがちょうどいい。深い飴色も、昭和喫茶に置いてあるお冷のコップみたいでアイスコーヒー映えが抜群に良い。

ちなみに冬生まれの僕は、(周りに言わせれば)なぜか冷静沈着な人間だと思われているらしいけれど、中身は熱々の怒りで昔から焦げ付いている。そう言われてしまうと逆にアイスクリームの天ぷらみたいに「外側はカリッカリの熱々だけど、中は奥歯が沁みるほどクールで冷静」な人間になりたくなるが、現実では「外側は覚めて冷静で分析的に見えて、中身は尾崎豊みたい」だなんて、ヤダなぁ。いまだにシャイな中二のようでもあり、根本的な知性が足りないような気にもなって、それでも過ぎていく43歳の夜。盗んだバイクで走り出す代わりに、ある日暑い夜を更かしながら「サマーフィーリング」という映画を観た。内容自体は特にどうということもなかったんだけど、パリ、ベルリン、ニューヨークと舞台を変えながら心の傷にかさぶたを重ねていく一組の男女の物語。季節が変わる。それは何かを忘れるためにだけ存在する現象にも思えてくる。冬が来ると夏の暑さをすっかり忘れてしまうように、心も変わる。とか。夏の終わりになると毎年そんなことを感じてしまう、これはいったい何だろうか。つまり、サマーフィーリング。


Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。