多重露光やソフトフォーカス、時にはネガを洗浄することさえあるというサラ・ムーンの写真から、僕は常に「揺らぎ」を感じてきた。さっきまでそこにあった存在の不確かさ。儚(はかな)さ。思えば、人間という存在のなんと儚いことか。目の前にある結果さえ、さっき起こったばかりの現実かもしれないし、短い夢かもしれないと思う。例えば目の前にある「青」を見ても、それは自分の目を通して見えている「現象(光の屈折)としての色」というだけで、自分が目を閉じた瞬間にはまったく違う色になっているんじゃないか。そもそも僕が見ている青とあなたが見ている青が同じ色だって、誰が証明してくれるの?そんな強迫観念にも似た「なにか」が僕の中にはある。その意味で、僕はサラの写真から「人は揺れるものよ。でも揺れるから美しいの」という光を感じるのかもしれない。
そして、今回「27」がリリースする青色のバスクシャツは、1957年にフランス人画家イヴ・クライン(Yves Klein)によって開発された「黄金よりも高貴な青(International Klein Blue=以下IKB)」を追求した一着である。鮮やかで深みのあるこの特別な色を、化学繊維は使わずにコットンだけで忠実に再現するために「27」は熟練職人を擁する染色工場とパートナーシップを結び、通常は2〜3回で終えられるビーカー手配(カラーマッチングの試験)を8回繰り返し、生地になる前の段階(すなわち糸の状態)で丁寧に染色することで、限りなく「IKB」に近いブルーに辿り着いた。10年ほど前に軽井沢のセゾン現代美術館で、僕はイブ・クラインの作品を初めて見たが、それは、あまりにも巨大で圧倒的なブルーだった。「このブルーならば、僕が目を閉じている間もきっとブルーなのだろう」と素直に思えた。
この夏、僕らは「圧倒的に青いバスクシャツ」と「圧倒的な揺らぎの物語」を手に、揺らぐ世界の中でも揺るがない意思を追い求める。不確かな世界の中で確かなことを見極めるためには、一度目を閉じるんだよ。それはきっと、角膜や瞳孔や水晶体を通さない光なのだと思う。
※ファッション・プロジェクト「27」について詳しくは→コチラ
1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。