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STORY

PRADA、下町、緑色。

実はPRADAが好きだ。実は、ってこともないんだけど、程よくアート性が高く、程よくリアルで、1960~70年代ムードに徹しながらもキチンとコンテンポラリーで、なおかつマッチョな匂いがまるでしない知的ミラノファッション。メンズウェアをスタートしてから、もう30年近くもそんな稀有な存在であり続けるって、やっぱりスゴい。最近ではRAF SIMONSとの協業で話題をさらっていたけど、それよりも何よりも、根幹にある「プラダイズム」的なものを僕は密かにリスペクトし続けている。とはいえ、全身ブランドアイテムで固めたりしない自分の場合、PRADAテーストを表に出さずにコーディネートに取り入れられるものには限度があったので、これまで実際に購入して着たアイテムは3~4品番くらい。しかし、僕の中でこの7年くらいずっと欲しいPRADAアイテムがあった。それはサングラス。しかも特定の。

2003A/WのHolliday&Brownも2013S/Sのダークサイドリゾートも2017A/Wのナード70'sも、どれも大好きだけど、やっぱり2012A/Wのルックは見た瞬間から全身をアドレナリンが駆け巡る様な興奮に襲われた。ゲイリー・オールドマン、エイドリアン・ブロディ、エミール・ハーシュ、ウィレム・デフォーら、ハリウッドの銀幕スターに建築家や若手モデルを織り混ぜたキャスティング。ティム・ロスの選出とかマジたまらんし。それぞれのルックもモーニングやハイカラーシャツ、アストラカンを配したチェスターフィールドコートなど、19世紀の退廃的ダンディズムを絢爛豪華に散りばめながらもどこか冷めたアイロニーを感じさせる内容で、男性の情けなさや弱さを一旦受け止めて、なお愛するようなヒューマニズムの佇まい。


そんな2012A/W PRADAの中でも、ひときわ象徴的だったのがスチームパンク的ムードのアイウェアコレクション。キャンペーン広告ではゲイリー・オールドマンが異常なほどに似合っていた。リアルタイムではかけこなす自信がなくてスルーしたけど、その後何年経っても「あれ、買っときゃー良かった」なんて、あとのまつり。特に最近ではMATSUDAの丸眼鏡にどっぷりハマっていたから、なおさら本気で探していたら某オークションサイトで遂に見つけた。


届いたものは思った通りにバッチリ気に入ったんだけど、2021年の今見るとレンズの色(初期設定はグレー)はもう少し明るい色に交換したいと感じた。では何色に?ランウェイでエイドリアン・ブロディがかけていた眼鏡の燃えるような赤?と迷ったが、フレームはシルバーなので、やはり薄いブルーかグリーンだな、と。


2009年に発行された厚み5cm超、700Pのボリュームを誇るPRADAの写真集をペラペラとめくっていたら、あ、これじゃん。プラダグリーン。サングラスをページの上に乗せてレンズを透かしてみたら、うぐいすをミルクで溶かしたようなプラダグリーンが眼鏡にピタリとマッチした。


PRADAストアを透かしてみても文句無し。ということで、レンズは薄いグリーンに交換決定。さっそくMATSUDAの眼鏡でお世話になっている原さんに連絡をした。原さんは現在、MATSUDAの仕事をしながら月島で眼鏡の専門店(その名も、DOWNTOWN!)を営まれており、知識も感性も信頼できる人なので今回のレンズ交換をお願いすることにした。当日、店を訪れると原さんと(共同経営の)中山さんが2人で迎えてくれた。用意して頂いていた3種類の「薄グリーンレンズ」の中から直感でひとつを選ぶと、店内の工房で中山さんがすぐさま作業に取りかかる。レンズをカットしたり削ったりする音をBGM代わりに原さんと世間話をしていると、20分程度で交換完了。仕上がりもイメージ通りだし、かけていったMATSUDAのフィッティングまで調整していただいて至れり尽くせり。


中山さん(左)と原さん(右)はなんと小学校の同級生らしい。中山さんは長年勤めたグローブスペックスを卒業し、コロナ禍真っ只中の昨年4月、原さんと共にDOWNTOWNを開業した眼鏡道の人。技術も専門知識も折り紙付き。月島商店街から少し外れた住宅街に佇むDOWNTOWN眼鏡店は自然光たっぷりの開放的な店内に個性派かつ本格派のアイウェアがズラリと並ぶ。サブカルの匂いをしっかり感じさせながらも、ホスピタリティ溢れる接客が下町の風情にマッチしている、とても良いお店だった。王様・MATSUDAをはじめ、パリの60'sヴィンテージを感じさせるTARIAN(タリアン)や音楽の香り高いJACQUES MARIE MAGE(ジャック・マリー・マージュ)、個人的に最も刺さるものが多かったJACQUES DURAND(ジャック デュラン)など、ファッション性もクオリティも高い品揃え。お2人のキャラクターもソフトにいい味出していて、女性にもお勧めできる本物の専門店である。

レンズ変更後。大満足。

PRADAからゲイリー・オールドマンを経由して月島までブラブラと歩いた。ハイファッションやハイクオリティが下町の情緒にポロっと紛れ込んでいる、何とも言えないこの感じ。パッケージされたものをそのまますんなりとは受け取れない僕にとって、2021年のリアリティは丁度そんなところにあるような気がする。
Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。