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STORY

脱ぐ、CLASS (Never let me go)

日本が世界に誇るド級の変態ブランド「CLASS(クラス)」からリリースされる洋服はいつも本当に楽しい。3年前に冬のパリでデザイナーの堀切氏にお会いした時は「もうこれから先、本当に自分たちが残したいな、と思えるものしか作りたくないんです」と話してくださった。そのシーズン以降、ますますクリエーションに磨きがかかったというか、いや、以前から勿論そうだったのだけれど、世界中のハイファッションブランドがコロナ禍でもがき苦しみながら(ブランドによっては)コマーシャルピースの割合が増えてきたりする中で「CLASS」のブレなさとか軸足の強靭さが相対的に際立ってきており、僕の琴線を更に刺激しまくりなのだ。……なんて長々と書いたが、簡単に言うと「欲しい物だらけ」ってこと。


2019年秋冬のアイテム<RONGWRONG>は、4本のWALDESジップで平面の生地を繋ぎ合わせたというのか、1着のベストをジップで4つに切り裂いたというのか、良く分からない構造の丸首ジップアップベスト。すべてダブルジップ仕様になっているので、ジップアップとは書いたものの実際ジップダウンすることも出来る。さらにややこしいのはこのベスト、ジップで繋いであるんだけど、それとは別に縫い合わせの部分は「毛抜き合わせ」という「生地の端を3mmほど開いて折り返し、奥で手まつりする」という職人技によって形成されている。この薄くて柔らかいダブルフェイスのポリウレタン/ウールを手まつりで縫い合わせるには相当の技術が必要だろう。そもそもジップアップは文明の利器というか、ボタンに比べたら超・合理的なパーツとして服飾史に登場してきたわけで、その合理的パーツを4つも搭載しているのに、高度な手作業を要する職人技もわざわざ併用する、という。合理なんだか非合理なんだか良く分からないが、とにかく驚くほどの手間がかかっているのは火を見るよりも明らかなのだ。そして、「CLASS」の服が何より素晴らしいのは「手間がかかっている」こと自体には、微塵も重点を置いていない点。実際に着ると楽しい。ただそれだけ。そこを最終到達点として作られる洋服からは「ありがたさ」よりも先にファッションのダイナミズムが伝わってくる。

全てのジップを全開にすれば、バラバラになってしまうベスト<RONGWRONG>を実際に着てみた。まずは冬の場合。

ラペルがデタッチャブルになったスーツは10年ほど前の「FRANK LEDER」。そのインナーに「CLASS」の<RONGWRONG>をイン。ジップを途中まで開けるとVゾーンの中でクルンと丸まってしまうベスト、なんてそうザラにはあるまい。勿論、ジップの重みと生地の軽さが計算されているはずだ。

上からツイードのチェスターコートを着ても<RONGWRONG>は<RONGWRONG>のまま。インナーでありながらチャーミングな顔をのぞかせて、こっちを見ている気がする。

そして、春夏の場合。アウターとして着用した<RONGWRONG>。この日は白シャツ、黒ナロータイ、LEVI'S 501という、ごくフツーのアメリカンスタイルの上からレイヤードしてみた。冬よりも、更に思いきってジップを開いてみたところ今にも脱げそうなほど体からはみ出して、僕から離れていこうとする<RONGWRONG>。ちなみに、ボトムスはジーンズの上から同じく「CLASS」のサマーウール製オーバーパンツ(5年前のアイテム)を重ねてみた。501のウエスト部分がチラリと見えていい感じ。

側面図。右半身は、もうほとんど脱げかかっている<RONGWRONG>。でも大丈夫、アームホールがあるから。しっかりと僕に掴まってるんだヨ。

と、ここまで書いておきながら、思う。こんなに自由すぎる服は不自由だ、と。「開けてもいいし、閉めてもいい」「インナーでもアウターでも、どちらでも」「軽くて、重たい」「着てもいいけど、脱げそうだよ」なんて。ほとんどの洋服(特にメンズ)は、ある程度の機能性を出発点としており、それはワークもミリタリーもスポーツも同じこと。しかし、堀切氏は機能ディテールをデザインとして表現する。結果として生み出されるのは「寒いから着る、暑いから脱ぐ」を超えた衣服である。この先、時代の変化がますます加速すると「暖かいので着ないダウンジャケット」や「自宅だから着けないネクタイ」が、煮立った鍋からスープが噴きこぼれるかのように排水溝へと吸い込まれていくだろう。

で?っていう。

衣食住を超えた衣服に機能性など初めから存在しない。「もうこれから先、本当に自分たちが残したいな、と思えるものしか作りたくないんです」と作る人がいて、着る人が存在する。僕もまた、着たい服しか着たくない。それを享楽的なダンディズムと呼ぶのかもしれないが、結果的に残るはそういうものだったりする。1880年代のLEVI'Sに博物館級の価値があるのだとしたら、それはワークウェアとしての機能性が高いからではなく、人々がヴィンテージデニムに享楽を覚えたからである。少なくとも、現時点での僕にとってファッションはまだまだ楽しいし、その中でも「CLASS」の洋服は僕に最高の享楽を与えてくれている。現時点でつまんないものを未来の為に買う事なんてない。今言えるのは、それだけだ。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。