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大人の夜遊び、僕の居酒屋。“レトロ喫茶店” 夜の部に 神保町という街の本質をみる

名曲『学生街の喫茶店』の歌詞のように、この街の姿も変わりつつある。昔から “本の街” として親しまれている神田神保町だけれども、近頃は人気の飲食店などが行列をつくり、“B級グルメ” の街としても注目されるようになった。以前から多いカレー屋を筆頭に、ラーメン、焼肉、うどん、最近は焼きそばの行列店まで誕生。それぞれが確かに旨い店ばかりで納得できるのだが、空腹のビンボー学生たちで賑わっていた昔の風景とは似て非なるものである。そして喫茶店も同じ。「レトロ」という形容詞がつけられる喫茶店たちは、今では “観光スポット” として海外の方やカップルでごったがえしている。店の佇まいとしては全く変わらないだけに、時の流れの侘しさをうたうガロの歌詞がそのまま沁みてくるわけだ。そして最後の砦である古書店はケシカラン事態に。慣れ親しんだあのすずらん通りに、ファッション雑誌なんぞを集めたチャラチャラした店があるという!
しかしその憤懣やるかたない気持ちを穏やかにしてくれるのは、街が夜の暗がりに沈むころ。路地裏の看板たちが、オレンジ色のあたたかい光で浮かびあがる。先ほどの喫茶店のいくつかは夜遅くまで営業しており、当然酒も用意して待っていてくれるのだ。私が贔屓にしている「ラドリオ」では、酒の種類も豊富で、カクテルまで楽しめる。ここは昼間でさえかなりムーディーなのに、夜のドアをくぐればそこはもう異国の地である。いや、時空を超えたパラレル・ワールドと言っていい。入った左手にはまさにバーのようなカウンターがあり、いつも常連らしき人々のひとクセある背中たちが並んでいる。先日入店するなり目に飛び込んできたのは、昭和初期の文豪のような袴姿と、その隣にアイビー、またその右にはコンチネンタルな背中。ちょっと盗み聞きした感じでは、別に申し合わせたような趣味人の集いというわけでもなく、それぞれ無関係の方々のよう。それらのツワモノにただ淡々と対峙する女性マスターがとても頼もしい。マニアも業界人も学生も、すべてが同等に店にとけ込んでいる。変わらない神保町が、ここにある。