しかしその憤懣やるかたない気持ちを穏やかにしてくれるのは、街が夜の暗がりに沈むころ。路地裏の看板たちが、オレンジ色のあたたかい光で浮かびあがる。先ほどの喫茶店のいくつかは夜遅くまで営業しており、当然酒も用意して待っていてくれるのだ。私が贔屓にしている「ラドリオ」では、酒の種類も豊富で、カクテルまで楽しめる。ここは昼間でさえかなりムーディーなのに、夜のドアをくぐればそこはもう異国の地である。いや、時空を超えたパラレル・ワールドと言っていい。入った左手にはまさにバーのようなカウンターがあり、いつも常連らしき人々のひとクセある背中たちが並んでいる。先日入店するなり目に飛び込んできたのは、昭和初期の文豪のような袴姿と、その隣にアイビー、またその右にはコンチネンタルな背中。ちょっと盗み聞きした感じでは、別に申し合わせたような趣味人の集いというわけでもなく、それぞれ無関係の方々のよう。それらのツワモノにただ淡々と対峙する女性マスターがとても頼もしい。マニアも業界人も学生も、すべてが同等に店にとけ込んでいる。変わらない神保町が、ここにある。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。