それにしてもBBのトレンチ姿、本当に素敵だった。魅力的な女性って独特の輝きを持っているよね。ファッションはその光を更に増幅させるんだよ。この映画のトレンチは正にその典型さ。いつも思うんだけど、女性が纏うトレンチって2つの相反するイメージがあるんだ。1つは軍服的なストイックさと柔らかな女らしさ。2つ目は直線的な構造の服に曲線の体が入るという事。それを踏まえて、ボクたちデザイナーはスプリングコートを作るんだ。例えば、キリッとしたマニッシュなデザインで1サイズ大きめ風を設定、そしてウエストをベルトでマークすると得も言えぬ妖艶なイメージにすることだって出来るんだよ。メンズサイズを纏う小悪魔さ。それは君にピッタリかもしれない・・。だから今回はボクの手作りで BB のオーラを君の肩にそっとかけてあげたいんだ。
そして上手に出来たら一緒にセーヌ河川敷のカフェに行こうよ。晴れた日の夕方がいい。エッフェル塔に日が沈み、テーブルにはロウソクが灯される。オレンジ色のミモザを飲みながら終始ご機嫌な君。バトームッシュが通るたびにコートの裾が風になびく。春の夜風が動くたびにロウソクの灯りが揺れて君の瞳に映り込む。ボクも真っ赤なキールを口にしながら、伏し目がちに灯りの軌道を追っている。わずかになったテーブルのロウソク。絶える事のない灯りをボクは探した。そして見つけたんだ、暗闇に咲く一輪の花。ボクらは歩いた。そしてそこには夜のミサを行うノートルダム寺院が暗闇から浮かび上がっていたんだ。嬉しかった。君の瞳の中に見えたんだよ、教会の薔薇窓の灯りが。瞳に映り込んでいたんだよ、輝くガラスの薔薇の花びらがね。それはロウソクの様に揺らめく事も消える事もない、約束されたパリの風景。その瞳の中の永遠が何よりも嬉しかったんだよ・・。
どお?楽しそうだろ?
こんな夜の散歩も悪くない。春のコートの襟を、少しだけ立てて。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。