写真右は、横浜にある日本最古のセレクトショップ「信濃屋」が創業150年を記念してつくったモデルをベースに、パターンオーダーしたもの。生地はチェーザレ・ガッティのカシミア100%と贅沢だが、トラディショナルな3パッチ仕様でラペル幅、ゴージ位置、着丈といったデザインもベーシック。シルエットもちょっとゆったりしており、昨今のPITTI的文脈は一切読み取れない。そう、究極に「普通」なのである。そこには90年代のクラシコイタリアブームの火付け役ともいわれる、〝紳士服業界のゴッドファーザー〟白井俊夫さんの美意識がうかがえる。
それに対して左のジャケットは、かなりクセが強いかもしれない。まずもって肩パッドはギンギンに入っているし、ラペル幅は細く、ゴージ位置は低め。しかもボタン位置が異常に高いひとつボタンだ。着丈だってえらく長いときている。要するに極めて80年代バブルなエクスストリーム・ジャケットなのである! こちらは世界で最も〝早い〟といわれるドメスティックブランド「CLASS」のもの。生地や仕立てはバッチリつくり込んでいる点も(不幸なことに)多少目が肥えてしまった40オーバーにはうれしいところだ。
並べてみるとなんだか一貫性がないと思われるかもしれないが、自分のなかではいちおう筋が通っていて、それは「クラシックは90年代」、「モードは80年代」という、リバイバルの潮流を完璧に具現化した2着ってことだ。いわゆるクラシコモーダではなく、こんな風にしっかりキャラクターが立ったジャケットが、今の気分だと思っている。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
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