私がいま思いを募らせているのは、永井博によるイラストレーションとその時代性です。このレコードジャケットにあるトロピカルな色彩は、それが発表された80年代初頭を代表するヴィジュアルイメージのひとつだと思います。山下達郎の『FOR YOU』等でお馴染みの鈴木英人がカバーイラストを担当した雑誌『FM STATION』の創刊もこの頃です。このイメージの発祥地点は明らかではありませんが、世間の流行的には70年代後半からのサーファーブームが土台になっているような気がします。76年創刊の『POPEYE』が繰り返し特集した “アメリカ文化としてのサーフィン” が日本のストリートでファッション化し、その部分をクローズアップしたような78年創刊の『Fine』が大衆性を獲得していった時代。パステル調だったり非常にカラフルなTシャツやジョギングパンツが誌面を飾り、「パームツリー」やカクテル飲料とか、とにかくトロピカルなムードに溢れていたわけです。
それ以前に目立ったヒット曲も無く、当然テレビにも出てこない “知る人ぞ知る” 存在であっただろう大瀧詠一。その新作がいきなり売れ始めたのは、このアルバムジャケットの訴求力が大きかったのではないでしょうか。事実としてLP発売当時、この永井博によるヴィジュアルがグッズ化されてレコードショップを賑わせていたようです。誤解をビクビク恐れまくりながらも言わせてもらえば、『A LONG VACATION』は80年代の「ファンシーグッズ」のひとつだったのかもしれません。音の出るファンシーグッズ、鮮やかな “天然色” のファンシーグッズです。しかしそこから放たれた音楽はアメリカの極上のポップスを濃縮・翻訳したもので、“アメリカをファッションにしていた” 陸サーファーたちを次々とトリコにしていったのだと夢想します。
しかしそう書いてしまうと “レコードジャケットのお陰で偶然売れた” なんて印象になりそうですが、このジャケットについて、そもそもは大瀧詠一本人の強い思い入れがあったのだと思われます。なぜならこのアルバムが世に出る前の79年、大瀧は同じ『A LONG VACATION』というタイトルで永井博のヴィジュアルブックを出版しているわけです。R.NYという情報サイトにおける永井氏のインタビューにて「実はワインメーカーの広告の為に書いたものが絵本の表紙に使われて、それがレコードジャケットになって売れた」とあります。広告で見かけたイラストを気に入った大瀧が、それを元に新作のイメージを膨らませていったという流れだと推測します。『rockin'on』1984年9月号の大瀧詠一インタビューでは、自分の曲作りについて「とにかく先に光景があるんです。」として、「81年の夏『ロング・バケイション』、あのジャケット、あの音という聞かれかたをされると嬉しいね」との言及があります。永井のイラストレーションを介して時代性を追求していたからこそ、その時代を超える傑作が生まれたのかもしれません。
さて、聴きはじめてから一周してきてやっと今、リラックスした気持ちでこのアルバムを楽しめるようになったのかなと思っております。“日本語ロックの創始者” とか、過剰な伝説はホントにもうお腹いっぱいです。部屋のディスプレイでもBGMでも構いません、この南国的なイラストレーションが、松本隆の詞により映像化され、あの頃の華やかなリゾートへと導いてくれればそれでサイコーなのです。
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