先日、ひょんなことから1940年代に支給された伝説のフライトジャケット『A2（デュボウ社製）』を手に入れた。昔からカチン・コチンのレザーを見ると無性に蘇らせたくなる性分で、純度100％、浸透性バツグンのホースオイル片手に風合い復元作業に取りかかることにしたんです。裏地をも解体してヒビ割れカ所の補強、縫い直しを経てまあまあ着れる程度には復活！あまりの嬉しさに3日連続合計36時間も着てしまいました。1日の半分を3日間着続けた訳デス。そして着用インプレッションの末、こう思いました。これぞ男服！カッコイイ。

しかし、わだかまりが1つ。このジャケットは本当に戦う為のものなのか？と根本をひっくり返すこの疑問がアタマのなかで渦まいてしまったんです。
ボクはこの年になるまで、その時代、時代で最善の機能を盛り込んだ、実際の戦場で使われたフライトジャケットをホントに良く着て来ました。一番のお気に入りは G−1 、次にタンカース、以下コットンの B−15 シリーズ、そして MA-1 型のナイロンシリーズといった具合に。しかし、A2 だけは今まで縁がなかったんですね。それ故、長年のイメージと現実の着心地とのギャップがハンパなかったんです。なので、そんな頭に浮かんだ疑問符を箇条書きにてまとめてみました。題して・・・
『元々 A2 とはどういう状況下で着る軍服なんですか？そもそも A2 とはフライトジャケットだったんですか？』

疑問その（1）、元来、航空機搭乗員はツナギの上にフライトジャケットを重ね着しますが、その着方をするには A2 のアームホールって小さすぎませんか？
疑問その（2）、この小さな襟が付いている意味って何ですか？台襟の意味って何ですか？戦争服って意味の無いものは基本的に排除と認識してるんですが、この A2 の襟はわかりません。身頃と共革の襟のついたフライトジャケットは歴史的にも稀です。ドイツの様に襟に階級章を付ける訳でもなく・・・。
前身の A1 の様なリブだったり、ライバルと言われている海軍の G−1 のようなムートンの様に首を冷気から守る機能を持たせているなら分かるんですが。馬革であんなに細かな裁断、動員で集められた人たちも縫製要員で混ざる状況でこのシビアな作業は非効率ですよね。しかしながら、このシャープな襟のお陰で作業着感が払拭されドレッシーな印象すら漂っています。戦場という極限状況の中で機能目的ではないスタイリッシュなディテールは、逆にハートに刺さります。
疑問その（3）、軍の広報写真では A2 着用の将兵はワイシャツ＆ネクタイの上に着ていたりと、なんだか正装、おめかし着感覚のなんですよね。実際に A2 を着用してのパイロットの出撃写真を頑張って探しても実はなかなか見つからないんです。演出された広報写真なら一杯あるんですけど・・・。
疑問その（4）、ほぼ同時期に開発された陸軍の A2 と海軍の G−1 。同じ飛行ゾーン設定なのに、かたや当時の考えうる運動機能満載の G−1 、かたや動きやすさに通じる機能をほぼ持たせなかったA2・・・。やれば陸軍もできたのになぜなのか？？使用目的が違うのか？

そしてボクなりの『もしかして・・・』
A2 とはいわゆる士気高揚の為のチームジャージの様なものだったのではないかと思うんです。部隊章を胸に付け作戦会議やオフのとき等にチームのプライドと共に袖を通す・・・主にそんな用途だとしたら鍵ホックまで付いた立ち襟やスマートな袖、小さなアームホール、機能を持たない、ものが入らないがシャープなポケット等、全て説明がつきます。魅せる服であったという意味です。空中で戦うためではなく地上で着用する想定だったのではないか？そんな気さえします。
A2 とは戦争の為の機能服ではなく航空隊兵士達の為の美しい革製正装着と見るのが自然だと思うのです。（まぁ、結果的にスタイリッシュだけど動きにくい故、そういう使い方になってしまった、そして後継品番には繋げなかった・・・が正直な考察です。）
地上では A2 を着た操縦士たち。かの、フライングタイガースも記録写真によるとコクピットでは G-1 系のJKも多々装備していた様です。A2 と同時期にデビューした G−1 は戦争の為に使用する、戦う為の機能服だからです。ボクにどれか1着選んで飛行機を操縦しろ！と言われたら確実に G−1 かタンカースを手に取ります。動けるからです。でも、へたに機能や構造線がない事が A2 の独特のミニマルなかっこよさに繋がっていると思うんですよねー。後継A品番は繋げなかったけど・・・。

時代は下って・・・、こんどは映画『タクシードライバー』で主人公トラヴィスが着ていたタンカースの謎を探ります。
>>映画『タクシー・ドライバー』の衣装にまつわる謎。