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STORY

硬くて堅い英国のシャツ

少し前に英国から取り寄せた荷物が届いた。

中身は2枚のシャツ。僕はTurnbull&Asserのシャツが大好きだ。服の良し悪し、その基準なんて人それぞれだろうが、僕にとって最高のシャツはAnna MatuozzoでもFRAYでもLUIGI BORRELLIでもCharvetでもなく、Turnbull&Asserである。何が良いって、一言で言うなら「硬い」のだ。襟やカフスの芯地は異常に硬いし、Classic T&A collarと呼ばれる襟先が内側に向かってグイッとカーブする襟型(T&Aのシャツを買うとき僕はこの襟型しか選ばない)の印象も堅い。硬すぎて新品時はネクタイを締めた後に襟を返すのも難儀なくらいだ。20回くらい着用と洗濯を繰り返すうちに、気づいたら馴染んでいるという感じ。逆に言えば、ガシガシ着ないと良くならないとうこと。これぞ英国の服!という着心地や経年変化。そんな硬いシャツを今まで10枚くらい、繰り返し買っては着倒して着潰してきた。そしてまた、この秋に新調した。いつも同じ襟型、ボディを選ぶので通販でも安心してリピート買いしている。今回届いたのはイエロー&ホワイトのキャンディストライプとクリーム色のポプリン。過去に買ったものはすべてダブルカフスだったが、今回初めて3ボタンのシングルカフスを選んでみた。

今までにも英国製のシャツはたくさん着てきた。Cleeve of London、Hirditch&Key、Budd、Norton&Sons、E.Tautz、Emma Willis、Margaret Howell、John Pearse、Kilgour…(最後のふたつはCleeve製だったハズ)などなど。別に「英国製」という響きに酔っているわけではなく、Turnbull&Asserのシャツは実際に僕の性分にピッタリとハマるのだ。ナポリのシャツと違って手まつりの箇所など何処にもないが、律儀で素っ気ないシングルニードルのミシンステッチが実直で清々しい。シングルカフスもダブルカフスもギャザー仕様で袖に取り付けられており、いずれも剣ボロ釦は付いていない。このボタンがないとカフスの上がスカスカと開くのだが、どうせ上着は脱がないし一枚で着ることはないでしょ?って感じなのか。スカスカ感も慣れればなんてことないし、実際に僕は上からニットや上着を必ず着ている。(※日本で売ってるT&Aは剣ボロに釦が付いているけどあれは日本向けの仕様なのか?)

シャツを包装した薄紙にプリントされたイラスト。この、ちょっと垢抜けないセンスも実に英国趣味だと思う。例えばDrake'sのような英国ネクタイブランドがPopeyeのファッションページを(日本→アメリカ→英国の順で)逆輸入したような編集型プレッピー的トータルブランドに、George Cleveryがハリウッドを標的にした弾道ミサイルのようなロングノーズに、それぞれが洗練されながら変わっていく様(勿論、これはブランディングとしては絶対的に正しいと思う)を見るにつけて、Turnbull&Asserだけはこの先も硬いシャツを作り続けてほしいと願う。T&Aが「純・英国」な堅いモノ作りを続ける限り、僕はこれから先もその硬いシャツを買い続けるだろう。何故って?このシャツがキッチリと「英国らしくある」うちは、僕がどれだけフザケた着方をしても大丈夫な気がするから。最近、確信したのだが、僕はファッションに関して「ヌケ感」とかそういう器用さとは無縁のようで、伝統(とやら)に真正面からぶつかって砕ける方が性に合っているようだ。つまり、僕にとって「英国製のシャツ=T&A」とはブランド性でもロイヤルワラントの権威でも品質保証でもなく、ぶつかり稽古をしても絶対に倒れないでいてくれる相手みたいなものらしい。変わらなさ故の、懐の深さか。

くれぐれも言っておくが、服の良し悪し、その基準なんて人それぞれ。ブランド名でもハンドメイドの有無でも、着心地の軽さ重さでも、耐久年数でもない。すべては自分のスタイルをよく知るところから始まる。何千着も洋服を着てきた今、それだけは言える。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。