僕は手元のアクセサリーをほとんど身に着けない。過去には指輪やブレスレットを買ったこともあるのだが、途中で邪魔くさくなってしまう。かなりの面倒くさがり屋なので、できるだけ着けっぱなしでいたい。また、アメリカン・マッチョ・カルチャーとも精神的に縁遠い性格なのでクロムハーツなどのジャラジャラ系には人一倍抵抗がある。更には、カレッジリングの様な(自身の出自と関係のない)シグニチャーものを着用することに疑問しか感じないタイプなので、(不自由な性格が災いして)極めて限られたゾーンからしか僕はアクセサリーを選べない、ということになる。
漠然と手元にボリュームが欲しいイメージで、Cartierのトリニティリングが欲しいと僕は思っていた。小指に着ければ手先の作業も邪魔しないし、なにより着けっぱなしでよい。とは言えそれなりに高額だし、何よりもトリニティリングにはジャン・コクトーのように超絶ファッション的なアイコンが存在することが逆に僕の心を小さくさせて、長い間二の足を踏んでいた。それでも、なんとなく指輪が欲しかった。
そして、ついに見つけた。
トゥアレグ族、と言えば最近ではすっかり名前が通っていて、それは勿論Hermèsから来るものではあるのだけれど、今や様々なところでアフリカの青い遊牧民であるこの族が作るシルバージュエリーは売られている。ベルベル人から派生した戦闘民族である彼らは、そもそも銀を用いて武器を作っていた歴史がある。元来トゥアレグのアクセサリーには「まじない」的な意味合いもあり、砂漠で生活する彼らが道に迷わない為の魔除けでもあったという。逆に金(ゴールド)は自らの身を汚すものとして忌み嫌っていた為、彼らが作るジュエリーは基本的にシルバー製のものである。10年ほど前にHermèsが彼らにシルバーに彫金を施したベルトのバックルやブレスレットを作らせて以来、その存在は世界中に知れわたることになった。とはいえ、族の中でも技術やクリエイティブには格差があり、まさにピンキリ。トゥアレグというブランド名(?)だけが先行しているフシさえあるが、Hermèsのジュエリーを作る職人は普段から建築物や柱など、よりスケールの大きなモチーフを作ることができる、トップクラスの技術力を持つ者だという。
そして、中目黒の某セレクトショップがHermèsの仕事を手がける職人であるトゥアレグ族のMr.Mにコンタクトを取り、別注したのがこの12連リング。砂漠を流れ歩くかの族が昔からカレンダー代わりに使っていた7days ringをベースに、それをアレンジした12months ring。7日間を12ヶ月へ。この発想からは抜群にロマンチックな香りがするし、7連から12連になったことで、華奢なのにボリューム感があるという理想的なフォルム。12個のリングを繋ぐシルバーのプレートにはデザイナーのホールマークが入っている。また、通常はシルバー製のトゥアレグジュエリーをシルバー×ブラス(真鍮)×コッパー(銅)という異素材コンビネーションに変更してあり、色味が特定されない「不揃いな曖昧さ」も僕好みだ。12連も素材替えも異例のことで、このお店だけの世界エクスクルーシブらしい。ちなみにこのショップ、僕と同郷(熊本)の先輩Hさんが13年前に立ち上げたお店で、このリングは13周年記念のスペシャルピースだそうだ。Hさんとは、やはり熊本出身の先輩Iさんの誕生パーティーで7年前に知り合った。サプライズ企画だったこの夜、主役Iさんはクライマックスで顔面バースデーケーキを喰らいながらもニコニコしていた気がする。生クリームを手で拭いながら、宴は夜中まで続いた。さらに今から2~3年前に、やはり同郷の先輩である「モヒート好きのYさん」とAM3:00まで二人で飲んだ夜。Yさんが着けていた9連リングに興味を持った僕は、渋谷・グランドファーザーズのバーカウンターでトゥアレグ族について色々と教えてもらった。その夜から僕の頭には「Touareg」の名前が刻み込まれていたのだろうか?そして、熊本コネクションはいつだって深夜にやってくる。2020年の9月某日、僕は中目黒のショップへと足を運んだ。
かくして、熊本の濃厚な血を辿って僕の左人差し指に納まったTouareg 12months ring。買うときには小指と人差し指でどちらのサイズにするか一寸迷ったのだが、小指は開けておくことにした。そこにはやっぱり憧れのトリニティリングが来てほしいから。というか、Cartierも別に今すぐ買おうと思えば買えるけど(できることなら)それも人との出会いを介して買いたいな。買い物で手に入るのはモノだけど、その買い物にまつわる出会いや物語が個性的であればあるほど、それはもはや単なるモノではなくなるのだ。














