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STORY

もつ焼きキャップとアイビー


スクールカラー(英: School Color)とは、学校のシンボルカラーのこと。有名なところではハーバード大や早稲田大のエンジ色(ハーバード大のはクリムゾンというらしい)、明治大の紫やイェール大のイェールブルーも印象深い。各校のスクールカラーは大学旗やスポーツのユニフォームに反映されている。楽天の三木谷社長は一橋大を卒業後、ハーバード大に留学してMBAを取得しているので、楽天イーグルスのユニフォームはエンジ色(クリムゾン)なのだとか。
1995~6年頃、カレッジスエットの一大ブームがあったので(いま思えばこれはRAF SIMONSのデビューコレクションの影響だろう)、僕も無邪気に「HARVARD」と胸に大きく書かれたエンジ×白のチャンピオンのスエットシャツを着ていた。しかしある時「なぜ出身でもファンでもない大学のスポーツグッズを着てるんだ!」という気になり、それ以来一切身に着けなくなった。同じ意味でカレッジリングも買わない。

最近、僕はかなりオーセンティックな(一見、早稲田カラーに見える)エンジ×白の野球帽をかぶっている。後輩からプレゼントされたこのキャップ、刺しゅうされているのはアルファベットの「w」ではなく、漢字の「宇」。これを見て、ピンときた方はかなりの酒呑み(笑)。そう、京成立石の名店「宇ち多゛」のオリジナルだ。キャップがこの配色になっているのは店先の暖簾がエンジ×白だから。

吞兵衛の楽園・京成立石にあって、もはや神格化されている感すらある激ウマ&激混みのもつ焼き店「宇ち多゛」。ラーメン二郎におけるジロリアンたちがそうであるのと同様、この店で客は呪文のようなワードで注文したあと、私語を慎みながら黙々と食べ、そして飲む。まさに飲み屋の姿をした神殿なのである。キャップをくれた後輩たちと一年半前に立石を訪れた僕は「宇ち多゛」を皮切りに昼から4軒はしご酒をして、片方のコンタクトレンズを無くしながら夜中にヘロヘロと帰宅した。帰り道に日暮里で立ち食いそばを食べたことは翌日になってようやく思い出した。まさに「酒を浴びるように飲んだ」一日だった。
まぁ、そんなことはどうでもいい。

もつ焼きキャップをかぶったこの日の僕は、シアサッカーのセットアップにコードヴァンのタッセルスリッポン、ニットタイというアイビー的イディオムで全身を固めている。しかし。全体の配色は「スクールカラー」とは程遠い、妖しさのグラデーション。B.Dシャツの代わりに危険な曇りピンクのプリントシャツ、ウェイファーラーの代わりにMATSUDAのブルーレンズ丸眼鏡。やっぱり僕にはできないのだ。清潔で爽やかなアイビースタイルの模倣は。たぶん心が濁っているのであろう。

いわば立石アイビー。

「宇ち多゛」には三密の極致とも言える50~100人ばかりの行列が毎日できる。恒例の風景だ。皆、口開けに供される希少部位を目指し、仕事そっちのけで朝からやってくる。コロナ以降の立石はいま、どうなっているのだろうか。いずれにしても京成立石駅前に密集した飲み屋街は災害時対応のために再開発、近い将来取り壊されるという。東京が失ってしまう風景に想いを馳せるのだとすれば、立石アイビーだってまんざらメンズスタイルらしからぬわけでもない。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。