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STORY

フイルム畑でくだ巻いて(ウディ・アレン編②)

「前回は自分の想定以上にキレキャラへ流れてしまったから、コホン(気を取り直して)、『アニー・ホール』の話に戻ろうか」「いや、いいっすよ、もはや」「え(怒)?」「はいはい、分かりましたよ、話せばいーんでしょ?」「よろしい、続けなさい」「(高圧的だな…)えっと、まず冒頭にある映画館シーンでウディが画面(観客)の方を振り返り話しかけるとこ」「うん」「斬新じゃないですか?当時」「第四の壁か。あれは『アニー・ホール』よりも10年前に『アルフィー』('66)の中でマイケル・ケインもやってたな。ただ、元を辿ればウディが大好きなマルクス兄弟だろう。元々ウディはスタンダップコメディアンをやっていたから、観客に向かって話しかけるなんてのはお手のものだよ」「あ、そうなんですね!知らなかった!」


「お前、他の監督の映画とかあんまり観ないのか?」「いや、観ますけど…何から観ればいいのか…」「そこが畜生の浅ましさ」「え?だって…」「いや『アニー・ホール』の中だけでもウディがたくさんヒントを出してくれているじゃないか。映画館で列の後ろに並んでいる知ったかぶりの男がフェリーニの悪口言ってるだろ、ただの技巧派だとか何とか」「あ、はい。言ってましたね」「フェリーニは観たのか?」「むかし『8 1/2』がお洒落だと聞いて試みたんですけど、途中で寝ちゃって…」「馬鹿野郎」「え?」「根性のないやつだな」「映画って根性で観るんすか?」「初めて出会うものにすんなり馴染めるはずないだろ。繰り返すんだよ。何度も!『青春群像』も『アマルコルド』も観ろ!」「えー、ダルいなー、それは」「…じゃあ、ベルイマンは観たのか?」「ベルイマン?」「最初のシーンでウディとダイアン(・キートン)が観る約束をしてた映画は(イングマール・)ベルイマンの『鏡の中の女』だろ?ウディはベルイマンのことを崇拝しているからな」「へー」「世界の巨匠だぞ。黒澤明並みの。知らんのか?『アニー・ホール』('77)と『マンハッタン』('79)……」「あ、『マンハッタン』は観ました!好きでした」「その辺はみんな好きだよ。その二作品の間に撮った『インテリア』('78)、これはウディがかなりベルイマンを意識したタッチだな。大ヒット作の翌年にこの暗~い静かな作品を撮ってしまうところにウディ・アレンの奥深さが感じられるんだ。衣装から画面の色彩設計まで、とても『アニー・ホール』と同じ監督が撮ったとは思えない。そもそも大ヒット作の『アニー・ホール』でウディのスタイルが確立されたから、その反動もあったんじゃないか?」「あ、『アニー・ホール』だけの男と思われたくない」「そうそう」
「僕が観たロンドン三部作もちょっと違いましたね」「中期作品『重罪と軽罪』に近いサスペンスタッチだな。俺の場合、20代前半で初めて観たのが『ウディ・アレンの霧と影』だったから、逆に先入観無くてよかったのかもな。ともかく『アニー・ホール』のタッチ、ずーっと無駄話してるだけとか、長回しとか、ある意味で『パルプフィクション』なんかに影響を与えている気もするし、ウェス・アンダーソン『天才マックスの世界』のスピーチシーンはアルビーのコメディシーンにそっくりな気がする。個人的には…」「…」「おい…」「……」「寝てるのか?…寝てるな。チッ根性無しめ。(おもむろに読者の方を向き、話しかける)皆さん、人生は寂しく、みじめで苦しく、しかもあっという間なんです。在宅ワークだからといってこいつみたいに寝てる暇なんかないんですよ!早いとこウイルスやっつけちゃって、映画館に行かせろー!って感じですよ!?ね?」

※文中の先輩・後輩はあくまで架空の人物です。ご了承くださいませ。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。