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STORY

永い言い訳

GUIDIのブーツ「PL1」を2色、大人買いした。素材はホースフルグレイン。先に黒を、数日後にブラウンを発作的に買ってしまった。GUIDIの靴を買うのは10年以上ぶり。1896年創業のタンナーGUIDI&ROSELLINI社から派生したプロジェクト・GUIDIがスタートしたのは2005年。当時お店で取り扱っていた頃は、レースアップの短靴で10万、バックジップブーツで12~3万だったと記憶しているが、2020年現在では「PL1」一足¥190,300(税込)也。シューズに限らずレザー製品の価格高騰はこの20年で大きく進んだ。

最近ではエシカルやサスティナビリティがファッション業界でも大きく叫ばれており、価格高騰以外の面でもレザー製品には強い逆風が吹いている。ステラ・マッカートニーの様にシューズやバッグ・財布に至るまで徹底して人工皮革製にこだわるデザイナーもいる。食用以外のレザーを贅沢に使用したゴージャスなファーアイテムに比べたら、レザーシューズに対する世間の目は幾分かマイルドだろうが、革靴自体が何十年か後には少数派になるかもしれない。

GUIDIのレザーはトスカーナ伝統のベジタブルタンニングにより手作業で柔らかく表情豊かに仕上げられている。自然の材料で鞣(なめ)すので、科学薬品を使うクロムエクセル鞣しに比べ、環境への負担が少ない。ちなみに鞣し方には他にも動物系の油を使うものがある。以前、靴業界の巨人・ウィリー代表の秋山氏は店頭に並んでいる靴を一足おもむろに掴むと、鼻の近くでクンと嗅ぎ「これは魚(の油)だな」と呟いていた。若い頃にソムリエのような訓練を積んだらしい。

閑話休題。高額なファッションアイテムには「一生モノ」という言葉がしばしば付きまとう。靴やカバンなどのレザーアイテムではなおさら頻出である。たしかに一生着られる、という意味の耐久性を備えたものはある。しかし、肝心の「着る気分」が永く続くとは限らない。だからこそ「永く付き合える」と感じたものは瞬間的に買ってしまうのが僕の主義だ。実際、10年前に買ったGUIDIのブーツは今も現役の一軍選手だ。イギリス人の小話にこんなのがあるらしい。
「なぜあなたは高価な服を買うのですか?」「それは私がお金持ちでは“ない”からです」
つまり3万のスーツを30年で15着買うのなら、50万のスーツを(直しながら)30年着るという英国らしい話だ。15着のスーツはゴミになるがビスポークレベルのスーツなら子に譲ることもできる。まぁ、洋服好きの怖いところは「50万のスーツを10着買ってしまう」点でもあるのだが(笑)。ともかく、もうこれ以上ブーツは要らなくなった。あとは20年後にもGUIDIが似合うジジイになるだけである。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。