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STORY

僕らが靴を履く理由/言ってみりゃボディブローサンダル

夏が近づくと履きたくなるレザーサンダル。ここ3年ほどの間にすっかり市民権を得たのが「グルカサンダル」。その火付け役が伊・ヴェネト州にあるF.lli Giacometti(フランテッリ ジャコメッテイ)であることはご存知の方も多いはず。

インターナショナルギャラリー ビームスで初めて買い付けをした7~8年ほど前に購入した僕の私物はいまだにバリバリの現役。ソールがだいぶすり減ってはきたものの、デーゲルマンのスコッチグレインを使用したアッパーは全然元気。ビルケンやユッタならまだしも、どちらかと言えば華奢なルックスのレザーサンダルなのに、7年履いてもまだピンピンしているのは単純に「作りが良い」から。

エレガントな佇まいの割りに履き込んでもシャキッとして見えるのはビーディングと呼ばれる「伸び止め」のおかげ。よく見るとストラップ部分が三層になっている。アッパーとライニングの間に(伸縮性に富む)カンガルーレザーを挟んでいるため、華奢なストラップでも伸びづらいのだ。サンダルなのに立派な値段を取るだけあって、本格靴と同等の手間をかけて作られている。履き口以外のストラップにも全てビーディング処理を施すのは見るからに手間のかかる作業。ご覧の通り、ステッチワークも華麗だ。また、インソール前半分の下には薄手のクッションを入れてあるため、ブレイク製法にも関わらず履き馴染むと足形のフットベッドが生まれる。加えてインソールのレザーは丁寧にニスを塗って仕上げてあるため、素足履きしても心地よい。これは同社が下請けを手がける仏・有名シューズブランドと同様のレベル。

7年前の時点でグルカサンダルはキワモノだった。店頭ではスタッフかスタイリスト、業界人にしか売れなかったと思う。これにソックスを合わせるなんて、変態の極みだった。ちなみにサンダルにソックスを合わせても良いかどうかの基本的な分岐点は「サンダルが足のカカトまで覆うタイプかどうか」だと思う。ビルケン+ミックスソックスなどの場合を除き、つっかけサンダルに靴下は禁物。まぁ、その禁忌を平気で破るあたりにファッションの醍醐味があったりするのだが。

ともかく、F.lli Giacomettiのグルカサンダルが流行らなければ、現在のグルカパンツや4ポケットジャケットなど、ミリタリーに出自を持つ所謂コロニアルファッションブームも起こらなかったんじゃないか?ってくらいのキーアイテムだったわけだ。雨後のタケノコみたいに、今や各ブランドからリリースされているグルカタイプのストラップサンダルだが、この夏に購入を検討されている方はF.lli Giacomettiのものと、よ~く見比べてみてからでも遅くないはずだ。良いものには理由がある。数年後に差が出てくるのだ。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。