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STORY

ぼたんあそび①

巷では、この2~3年でブレザーブームが再燃している。切り口はアメリカ的アイビー/プレッピーとフレンチトラッドのふたつに大きく分かれる。ともに80's~90'sのリバイバルスタイル。例えば当時、インターナショナルギャラリー ビームスのスタッフは英国のテーラーにビスポークでブレザーを注文するにしても、ネイビーではなく黒のサージ、ゴールドではなくシルバーのフラットメタルボタンで作ったりしていたらしい。このツイスト感はその時代なりの(日本から見た)フレンチタッチだろう。ともかく、ブレザーのリバイバルとは言ってもフィッティングはイタリアンなスモールフィットが変わらず主流なので、3年前に買ったネイビージャケットをメタルボタンに付け替えてブレザー気分、ということでも十分通用してしまうようだ。さっそく僕もボタンを付け替えてみた。

元のジャケットは2年前に自分で企画したモデル。かっちりしたショルダーラインにパッチアンドフラップの腰ポケットが付いたシングルの2B。素材はCHANELのファンシーツイードとして有名な英・LINTON社のもの。ポリエステル×シルク×レーヨン×ウールという四者混ネイビー×ブラックのサマーツイード。デフォルトは黒ナットボタンだが、これをゴールドメタルボタンに付け替える。色目はダークだが、やはり女性的(というかCHANELスーツ的)なムードの素材。ここはやっぱりCHANELみたいな七宝ボタンかな、とか、どうせなら本七宝でオリジナルボタンでも作ってみようかなどと思ったが、金型製作だけで数万円(かつミニマム100個)からという場合が多かったのでサクッと諦め、結局大阪のパーツ屋から既製の七宝調ボタンを取り寄せてみた。七宝調とは本七宝ではない疑似七宝(真鍮にエポキシ樹脂を盛ったもの)のこと。ここでちょっとお遊びを。30年前の紺ブレブームの際にもあったクレイジーボタン(フロントや袖のボタンにあえてバラバラの種類を付けたものを先輩方もよく着ていた)を思い出し、フロント2つと袖4つずつ(計10個)のボタンを全部で3種類(7個、2個、1個)に振り分けてみた。

色目はブラック×ゴールドで統一し、パッと見では気づかないくらいのさりげないクレイジー具合。なかなか良い感じに仕上がった。

ジャケットがフェミニンな雰囲気なので、足元はトラックパンツ+GUIDIのPL1を合わせて男っぽく仕上げる。ハイカラーシャツ+白タートルネックはカール・ラガーフェルドへのオマージュ?2012年の展示「The Little Black Jacket」を思い出しながらコーディネートしてみた。8年前の写真展を回想しながら一生懸命ボタンを選ぶ、我ながらなんと暇な人間なのだろうか(笑)。しかしボタンひとつで印象が大きく変わる(結果的にコーディネートのイメージも大きく変わる)メンズ服の世界って、実に馬鹿馬鹿しくプレイフルな要素に満ち溢れている。まるで日が暮れるまで砂場で遊び続ける子供のようだ。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。