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STORY

さよならストレンジャー

以前にもご紹介したウィーンの老舗・Muhlbauer のキャップ。手作り感とローカル感が愛らしい大好きな帽子屋だが、僕はここのベースボールキャップを愛用している。浅めのクラウンやツバの長さなど、全体のバランスが良く被り心地も上々だ。調子にのって色違いで計4つ(黒、茶、グレー、グリーン)も購入してしまった。夏用もあるのだが冬用のこれらはローデンクロスで有名な生地メーカー、Leichtfried(ライヒットフリード) のローデン素材を使っている。オーストリアで創業130年以上の歴史を誇るこの生地屋、1984年には100周年を記念して、同じくオーストリア出身の Helmut Lang とも協業している。メリノ種ウールを使ったライトなローデン素材のこのキャップは実にオーストリアらしい発色で、特にグリーン。チロリアンハットのような愛嬌をこの緑色の帽子に感じた僕は、ピンズや缶バッジを付けてカスタムしてみた。

チロリアンハットを被って登山を楽しむ人々が、山頂にある土産モノ屋で買ったピンズを帽子に付けているみたいで、なかなか愛らしい。キース・ヘリングからバスキア、昔ニューヨークで買ったお土産(地図型)、オリンピアのレコードレーベルK records の缶バッジまでをわらわらと適当な感じで。

Artumès & Co のドイツ製チロリアンジャケットとコーディネート。ウィーン市内にはお土産モノとして本格的なチロリアンジャケットを売っている店が数件あるが、現地人の日常着で全身チロリアンスタイルの人は歩いていない。ローデンコートを着た人は数人見かけたけど。パリの街にボーダー柄のシャツを着てベレーをかぶった人など実際にはいないし、いるとしたら日本人観光客くらいだと思う。そんなおのぼりさん気分で楽しむ「スーベニアスタイル」は間抜けなストレンジャーみたいで、なかなか愉快だ。東京ならではかもしれないけど。夢想が今日も僕のコーディネート欲を膨らませる。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。