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STORY

1750年創業の Henry Maxwell はイギリスで最古のビスポークシューメイカー。現在では Jermyn Street にある Foster&Son の傘下で細々と注文を取っている。15年以上前、インターナショナルギャラリー ビームスではここの既製靴を取り扱っていた。インソールのロゴを旧式のものにしてもらったり、御大テリー・ムーアが削った木型のモデルを展開していたりと、かなり充実した品揃えだった。当時の上代で14万円は今の相場で20万円近いイメージ。コードヴァン製Aldenが8万円台で買えた頃の話だ。

僕が所有する Henry Maxwell は2足。2005年頃にビームスで購入したセミブローグとしばらく前に古靴で入手したフルブローグ。同じメーカーの靴だとは思えないくらい、雰囲気が違う。実際にファクトリーも違うのだろう。日本人職人・松田笑子女史を擁する Foster&Son 内のアトリエで作られた正統派な面構えの左、おそらく'90年代製のなんとも不恰好な右。フォルムも革質もまったく違う。というか、キメの細かいカーフを使用したセミブローグに対してフルブローグの方はガラスレザー。Church's のポリッシュドバインダーカーフを薄く柔らかくした感じ。雨が多いイギリスならではの素材とも言える。

ホーウィン社のコードヴァンNo.8 から重厚さを取り払ったかの如くテカテカと軽薄に光るチェリーブラウンのアッパーに黒いライニング…。ライニングの切り替え位置などは諸々違うものの、サイズを表記した「小窓」が開いている点はどちらも同じ。

Henry Maxwellは長い歴史のなかで経営者が幾度となく変わってきた。時代ごとに様々な靴を作ってきたようだ。Henry Maxwell の靴で、ビスポークを松だとするならば、このセミブローグは竹、フルブローグは梅といった感じ。ガラスレザーはどのみち履きジワが入るものなので、シューツリーも Alden と同じく Rochester で十分だと思っている。革が割れないようにクリームは適量入れている。見た目だけでなく履き心地も当然、別モノ。ベクトルは違うものの、僕にはどちらも履きやすい。
決して上品だとは言い難い、このアメリカンチェリーのようなイギリス靴だが、僕はあくまでもファッションとしてレザーシューズを履くので、その日のコーディネートによっては少し下品な靴の方がマッチする場合があるのだ。

ウール/ポリエステル混紡でガサガサな質感の 5PKT は7×7のもの。セミフレアシルエットのパンツにガラスレザー。ケミカル素材同士の組み合わせが70's気分にしっくりくる。

僕は洋服屋の中でもかなり左寄りな「ファッション屋」なので、上品なアイテムと下品なアイテムの両方を所有し、それをタイミングによって出したり引っ込めたりする方が性に合っているのだと思う。中トロやウニよりもゲソと鰯を食べたい時は「にぎり竹 8貫 2000円」よりも「にぎり梅 8貫 1200円」を頼むように、すべては気分次第だし、僕にとって良いモノの基準とはひとつではないのだ。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。