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STORY

味の記憶

スイーツのついでに惣菜パンを一品ご紹介。これは激ウマのグルメと違って、極私的なものになるのだが…。

志村坂上の商店街にあるパン屋「マルフクベーカリー」は昭和の中頃から地元に愛され続け、創業70年を迎える老舗。ここの名物惣菜パン「ちくわのフリッター」はちくわの天ぷらをホットドッグ用のパンに挟んだ正真正銘のジャンクフード。ちくわにはカレー味がまぶしてあり、その下には千切りキャベツとマヨネーズが敷いてある。B級グルメとしてTVで何度か紹介されたこともあるらしい。

僕はちくわ天が好きだ。うどん屋で天ぷらを一品トッピングするとしたら、かき揚げでもイカ天でもなく、ちくわ天を頼む。弁当屋でのり弁を注文する時、事実上のお目当てはおかかご飯でも塩鮭でもなく、ちくわ天だ。磯辺揚げになっていると、なお嬉しい。元を辿ればちくわが魚介だということに着目し、磯が香る青のりを合わせて揚げた初めての人はセンス抜群だと思う。で、ココのちくわ天はというと…。特にカリッと揚がっているわけでもなければ、ちくわ本体の質が高いわけでもない。フツーだ。翻って「えっ!?パンにちくわ天?しかもカレー味?」という奇跡的なマリアージュがあるかというと、そうでもない。オリジナリティもあるしフツーに美味いとは思うのだが、想定の範囲内。じゃあ、なぜそんなに好きなんだ?と言うと、近くに病院があるのだ。その病院でうちの長女と長男は生まれた。7年前に深夜の出産に長時間立ち会い、無事に女の子が生まれた日の朝食。3年前に息子が退院した日、自宅で義母らと共に食べた昼飯。その食卓にいつもあったのが、このカレー味のちくわ天だった。バタバタしていたからすぐに食べられる惣菜パンを買って帰ったのだと思う。それ以来、定期的に足を運び、ちくわパンを食べている。

つい先日も、ママチャリを飛ばしてマルフクベーカリーを訪れた。ちくわパンを買い、自宅でひとり昼飯に食べた。その日は所用で朝まで飲み明かしてグズグズだったけど、このパンを食べたら不思議と優しい気持ちになった。僕が子供の頃、親父が飲み会帰りの深夜にいつも熊本市内で買ってくる、ハムと辛子バターを挟んだだけのシンプルなバゲットサンドイッチがあった。それは今も僕の味覚にはっきりと刻み込まれている。マルフクのちくわパンも、うちの子供たちにとって「親父の記憶とセットの味」に、いつかなるかもしれない。それまでの間、マルフクベーカリーには80年でも90年でも続けてほしいものだ。熊本にあったハムの名店「ドイッチェ」は10年ほど前に閉店してしまった。もう、あのサンドイッチは食べられない。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。

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