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STORY

日本人の脚、欧米のショーツ

日本の夏は暑く、長い。いよいよそうなってくると、なんてったってショートパンツ。巷のごく一部では去年~おととしくらいからスカート男子なるものが’90年代以来の復権を果たしている向きもあるが、大多数の男性にとってそこはまだ未知過ぎる領域なので、基本的には古今東西「男性はズボン」ということになっている。「スカートやワンピースってきっと涼しいんだろうな」と羨みながらも、一旦はショートパンツ姿でこの夏を少しでも涼しく過ごしていくしかない。


高円寺の古着屋「Bon Vieux」のためにNEJIが企画するプロダクトの第6弾は「ベルトレスショーツ」2種。ダックストップ型のボタン式サイドアジャスターでウエストを固定する膝上丈のショートパンツだ。フロントは2アウトプリーツ、裾はあらかじめ3.5㎝幅のダブル仕上げになっている。実にクラシックな仕様だが、そもそも「Bon Vieux」はドレスファッションを愛する店主のもとにドレスファッションを愛する男性たちが集まるお店。だし、ぱっと見は不安定を好むフリーキースタイルな人間と思われがちな僕も、根本にはクラシックスタイルがある。当然のように、これまでもこれからもベーシックを基調としたアイテム(に、すこしだけNEJIの回転を加えたもの)がリリースされていくことになる。


閑話休題。このショーツの特徴は、クラシックな意匠とは裏腹にどことなく脱力感のあるバランスに仕上げた点。こと、メンズドレスファッションにおいてショーツの金字塔と言えば「バミューダショーツ」に限る、とアイビー世代から脈々と受け継がれて(刷り込まれて)きたわけだが、やっぱりどうしても日本人の下半身には不釣り合いな気がする。そもそもバミューダショーツとは、ロンドンとニューヨークの中間地点にある(第二次世界大戦時の)英国自治領・バミューダ島で穿かれていた短パンが、アメリカ東部のアイビー学生たちに広まっていったという経緯からして、ある意味では規律(ドレス)と合理性を兼ね備えた様式美のショーツということになる。欧米由来の洋服が日本人にも似合うかどうかはもちろん体型による(2000年以降生まれの若者の中には膝下が長くふくらはぎが細い男子も多くいるだろう)が、基本的に「裾幅細め」の膝上~膝丈ショーツは農耕民族・低重心=日本人特有の「膝下の太さ・短さ」を助長してしまうようだ。ということで、今回のショーツ企画ではバミューダショーツ的な「膝上丈」を前提にした上で、まず裾幅を広げてみた。プリーツを2本入れることでワタリ~裾へかけてのシルエットもゆったり目(Mサイズでワタリ36cm、裾幅28cm程度)に設定した。5年前くらい前にショーツトレンドの筆頭に躍り出た「グルカショーツ」も、ある意味ではこのシルエットに近かったわけだが、とは言えそこはやはり「軍物モチーフ」。ストラップ・バックル・フラップ付きポケットetcと強ディテールが満載なため、3回も穿くとお腹いっぱいになりそうで個人的にはあまり好きじゃない。ディテールは極力あっさり味のものにしたかった。加えて、このショーツが軍物由来の「グルカショーツ」とは一線を画すポイントがヒップラインにある。後ろ股上を深く設定し、ヒップラインをふっくらと(平尻の日本人には少しだけ余裕が出るように)取ることで、ほどよい脱力感を演出してみた。結果的に「ドレスパンツを膝丈で切ったような細長シルエットのショーツ」とも「軍物由来で力強く規律正しいスクエアシルエットのショーツ」とも異なる、適度に気持ちの良いシルエットが完成したと思う。



乗せた生地は2種類。杢調の淡いグレーが切ないリネン100%のミニヘリンボーン、半年前にスクールブレザーに仕立てた(ストライプのピッチから配色まで、この企画の為にオリジナルで織り上げた)茶系のクラブストライプだ。テキスタイルだけを見れば、前者はEUワークインスパイアに、後者は英国物もしくはRLに代表されるブリティッシュアメリカンスタイルに思われがちだが、このシルエットと出会うことでそのどちらでもない曖昧さが際立つ仕上がりとなった。日本国内の縫製工場で丁寧に生産されているため、穿き心地も満点。3段階でウエストを調節できるので、その日のコーディネートに合わせて穿き位置を変えてもいいし、なによりベルト要らずだから腰回りが暑苦しくない。



制作したイメージルックでは「ワーク・スポーツ・ミリタリー・スクール」といったメンズスタイルの基盤となるアイテム群に、このベルトレスショーツをオン。大島氏から「せっかくだからタイドアップスタイルも入れたい」と要望があったので、鶴田もチョロッと登場している。参考程度に上下クラブストライプでセットアップしているが、これはあくまでも「お好きな人向け」という感じ。別に上下揃いで着なくともコットンニットやシャツジャケット、ポロシャツ、BDシャツ、軍物古着などにさらっと合わせてもらうだけでも十分にイケてるバランスのショーツスタイルが完成する。シルエットの威力。



足元はノーソックスでローファーを合わせてもいいし、レースアップシューズならばニュートラルカラーのソックスとコーディネートしてもいい。サイドアジャスターを使って腰位置を変えれば、自分の脚の見え方が一番気持ちの良い位置でショーツの丈を設定することができる。いずれにしても、ソックスのトップラインとショーツのボトムラインがある程度離れて見えることですっきりとした印象になるのが膝上丈ショーツの良いところ。更に一言添えるならば、(セオリーではソックスの色はパンツか靴どちらかの色から繋げるとした上で)ソックスの色を靴やショーツから繋げるのではなく、脚そのものに繋げたほうがよりすっきり見えると思う。


膝〜膝上丈ショーツは女性ウケが悪いなんて誰が言い出したのか。他人目線なんて気にしないのが一番だけど、気になる人は是非このショーツにトライしてみて欲しい。大人も若者も、なんなら女性がボーイッシュに穿いても可愛い。そんな農耕民族のためのショーツ、出来ました。

NEJI pour Bon Vieux「Beltless 2 Pleats Shorts」は2024年7月6日(土)より高円寺「Bon Vieux」にて発売予定。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。