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STORY

スクールボーイズ・ゴー・コーエンジ

いよいよ12月がやってきて、あっという間にその序盤が過ぎ去ろうとしている。2023年も締めくくりということか。今週末にはNEJI初のポップアップストア開催が控えているが、その前に発売となるのが『NEJI pour Bon Vieux』の最新アイテム。この企画が動き始めた段階から「スクールアイテム」というキーワードがなんとなく頭の中にあったので、2023年の春から夏にかけて、僕と大島氏で幾つかの「スクールアイテム」を作り上げることにした。第1弾のスクールマフラーを皮切りに今後も幾つかの「スクールアイテム」がリリース予定。そして、2023年12月9日(土)に発売となるのが「クラブストライプのスクールブレザー」である。


大胆なストライプが目を引くこの生地は、ピッチや配色など、糸ビーカー時点から念入りに議論を重ねて作り上げたオリジナルファブリック。はじめは画像編集のフリーソフトを使いながらパントーンの色味を組み合わせてシュミレーションしていたけれど、やはり最終的には糸と糸を近づけて見比べながらアナログなやり方で配色を決定した。ドレスクロージングをベースとする古着屋に並んでいてもおかしくない、なかなか洒落たストライプ生地が出来上がったと思う。そもそもスクールストライプには学校それぞれの配色や柄があるので、オリジナルで織ったストライプ生地であることの意味は大きい。


ややフラットなメタルボタンはエンブレムを廃したミニマルなものをチョイス。ゴールドが嫌味になり過ぎないように、スモーク加工を施して光沢を抑えた仕上げに。更に、胸に付けられたフェルト生地のワッペンは、デッドストックのものを買いつけ、全5種類のワッペンがそれぞれの個体にアソートで取り付けられている。当然、ワッペンの大きさは色によって差があるので胸パッチポケットのサイズは一番大きいワッペンを乗せても違和感がないように何度か微調整した。国内の有力ファクトリーで仕立てられているので、古着のスクールブレザーにありがちな着心地の悪さは皆無。立体感と着やすさを同時に感じられるハイクオリティな一着。


このジャケットのイメージルックを撮影するにあたり、僕の中にあったのは「如何にして、街着としてのスクールジャケットにリアリティを持たせるか」という点。スクールジャケットそのものが本来は学校の制服なので、うまく着こなすのは難しい、と思ってしまう人が多いんじゃないか?という懸念があった。僕にとってのスクールジャケットアイコンと言えば、永遠のブライアン・ジョーンズなんだけど「彼、ミュージシャンだしね。そりゃあ、何でも似合うよね」。そんなわけで、リアリティを重視するとキャスティングは「市井のおじさん」に決まり。しかも、洋服屋とかファッションモデルとか、つまり「どんな洋服を着せてもそれなりに着こなしてしまう」ファンタジー界の住人ではなく、普通の仕事をしている「おじさん」でなくてはならない。いたっけな?そんな人。…いた。


一般的な事務所や会社に勤めているふたり。30代後半と40代後半。バンさんは法律事務所の事務、ヨウメイさんは企業の総務課。やせ型ではあるけれど、特別なモデル体型というわけでもない。偶然だけど、ふたりともメガネ顔。うーん、リアリティ。キャスティングが決まったところで、頭の中に2人のコーディネートを展開していく。バンさんにスクールブレザーを、ヨウメイさんにはVネックのラムウールセーターに合わせてグレーフランネルのパンツを穿いてもらうことにした。あくまでもベーシックなアイテムしか使わない点も重要だと思った。当日は、高円寺の路地裏で撮影することにした。あらかじめロケハンしておいたスポットにカメラマンのモトシゲくんとモデル2人を連れていき「このあたりで、こんな感じに」と指示を出す。気取らない雰囲気、2人の大人が週末に高円寺で待ち合わせてはしご酒を引っかけるような気軽さで、路地裏の中からスクールボーイルックを切り取っていく。モトシゲくんが数回、シャッターを切る。一緒に液晶モニターをチェックする。に…似合っている。素敵だ。想像以上だ。






あらゆる学びの起点には好奇心がある。好奇心さえ失わなければ、人生は学びの連続だ。しかし、人は大人になる過程で好奇心をすり減らし、決めつけや先入観に支配されてしまいがちだ。とりわけ日本には「大人たるもの○○でなくてはならない」という同調圧力が渦巻いている気がする。だからといって、意図的に型破りな奇行を繰り返し逆サイドに走る必要はない。エキセントリックを気取る必要もない。ただ、すべてを分かったような気になって、「いまの時代は…」と遠い目をしながら世を憂う人生に学びはない。市井のおじさん代表であるバンさんとヨウメイさんに洋服が似合うのは、彼らが永遠のスクールボーイだからかもしれない。撮影の間、彼らはいかにも楽しそうに笑っていた。初めて着る洋服を楽しんでいた。クラブストライプのスクールブレザーも、ALDENのローファーも、M43のパンツも、英国製のタートルネックも、J.M  WESTONの180ローファーも、ATKINSONSのストライプタイも、BROOKS BROTHERSのB.Dシャツも、コーデュロイ地のスクールマフラーも、すべては彼らのものだった。たまに飲みに誘われて、彼らそれぞれと一緒に盃を交わす時間は僕にとって非常に好ましいもののひとつである。彼らは僕に学びを与えてくれる。そして、人に学びを与えるためには、まず本人が学んでいなければならない。すべての人が先生であり、生徒でもある。そういう意味で僕らは永遠に卒業できないし、いまのところ僕は何からも卒業するつもりがない。
 

『NEJI pour Bon Vieux』CLUB STRIPED SCHOOL BLAZERは、2023年12月9日(土)高円寺Bon Vieuxにて発売予定です。
Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。