そしてついさっき、30分ほど前に、現在進めている作業に飽き&嫌気がさしてきたので気分転換がてら、2024年6月末以来、ほぼ2か月振りに当コラムの編集画面を開いてみた。書きたいことがあって画面を開いたわけではなく、画面を開けば何か書きたいことが見つかるかもと思ったから開いてみただけなので、いまの僕には書きたいことがない。これは寝起きの目の前にチーズ牛丼を差し出されてすぐに「いただきます」できるわけがない感じに似ている。こういった場合の「食べたいものはない」には「起床直後の、現在は」という鍵括弧が付いていることと同様、上記「書きたいことはない」にも「編集画面を開いた瞬間に」が付いてくるということさえ理解していただければ、この牛丼の例えは即刻忘却のゴミ箱にポイしてもらってよろしい。
で、「なにか今すぐにでも食べられるものあるかな」と冷蔵庫を漁ってみたら起床直後でも比較的飲み込みやすく消化の良いバナナを見つけたときと同じように、ダッシュボードの下書き一覧(大概の場合、長期間放置されたこれら書きかけのコラムはそのまま永遠にお蔵入りすることとなる)の中に、僕は見つけた。それは「うどん」と仮題されたものだった。日付を見る限り「2022年の5月に書きかけたと思しき」その記事の編集画面を開いてみたら、そこには下の写真が1枚挿入されているだけで、白紙、1文字も書いてなかった。2年以上前の僕はいったい何を書こうとして、うどんの写真をここに置いたのだろうか。

どこからどう見ても仮題のとおり、100%「うどん」だ。そして、うどん好きの方はこの写真を見て気付かれたことだろう。これは池袋西武の屋上フードコートにある昭和43年(1968年)創業の老舗「かるかや」のうどんだ。僕は昔からここの素朴でワイルドなうどんが大好きで、池袋を通る時は(百貨店には用が無くても)「かるかや」目当てでこの屋上に来ていた。娘がまだ小さい頃などは「かるかや」でうどんを食べさせたあと、屋上のその辺をよたよたと歩き回る娘の姿をのんびり眺めたりしていた。そんなことを、いま執筆しながら思い出している。その「かるかや」は2024年6月末、いまから2か月前、つまり僕が前回の記事を書いている頃に閉店した。
僕の周りにもファンが多く、いつも行列ができている人気店だったはずなのだが、ご存じのとおり2023年に池袋西武本店がセブン&アイ・ホールディングスに売却されたこと、百貨店の面積は劇的に縮小されて家電量販店にリニューアルしていくことを受けての閉店だろう。地下の西武食品館にあった「かるかや」の手打ち麺製造販売所も同じタイミングで無くなったという。閉店の半年前くらいに妻から「『かるかや』閉店するってよ」と聞かされた時は「えーーー、まじで…。無くなる前に行かなきゃ」と言いつつ「でも、滅茶苦茶混んでるんだろうな~(実際に営業最終日には朝10時から大行列ができていたらしい)」と二の足を踏んでいるうちに、大好きだった「かるかや」はあっという間に閉店してしまっていた。ちなみに上の写真に写っているのは鰹節・油揚げ・かまぼこが乗った名物「かるかやうどん」をはじめ、「スタミナうどん」「月見うどん」の豪華ラインナップ。数年前に家族で池袋へ出かけた時に撮ったものだろう。
というわけで、とりあえず開いてみただけの編集画面から1本の記事を書き上げることができた。「うどん(仮)」だったタイトルは「閉店のお知らせ」に書き換えた。しかし、起床直後でも比較的飲み込みやすく消化の良いバナナを見つけたときと同じように書いたつもりが、なんだかその先にある軽度の「喪失感」に自分の気持ちを接続してしまったようで、思い出の味とセットになった当時の感情は消化が全く良くない。そこから無くなってしまったことが寂しいのではなくて、そこに在ったことがどんどん遠くなっていく。ぼんやりとうどんの写真を見ていたら、ちょっと小腹が空いたような気になって午前3時前。なんとなく冷蔵庫を開けてみたものの、やっぱり何も食べたくなくて、僕はそのままドアを閉めた。














