Fit in Passport に登録することで、あなたにフィットした情報や、Fit in Passport 会員限定のお得な情報をお届けします。

ページトップへ

STORY

34年ぶりの再会『agnes b ゴダール展のポスター』


事務所を一部リフォームしたので、なんとなく何か飾りたい気分となった。あてもなく深夜のwebの大海原を漂っていると、モニターの奥からちょっと黄ばん複数の瞳達と目が合った。そしてその直後、懐かしさとともに衝動買いクリック発動! 34年ぶりの再会を果たしたのだった。

それはアニエスべーが1986年にパリ本店横のギャラリーで開催したゴダール映画の特集展で企画販売した映画のワンシーンをコラージュしたポスターで、瞳たちの正体はゴダールは元より、ジャンポールベルモンド、ブリジットバルドー、ジーンセバーグなどなど。今夜、同じポスターを人生で2度買ってしまった訳だ。1度目の購入、それは1988年、21歳のボクがパリ、ピガールの築150年のステュディオで初めて1人暮らしを始めた時の事。シミだらけの麻のクロスの壁に飾るべくジュール通りのアニエスべー本店で買った。その日にうちにゴダール・オールスターズを部屋の東側の壁に画鋲で止めた。生活が進みポスターは日常風景の一部となり、2年の歳月が過ぎた。その間、貼ってある存在すら忘れてしまう位空間にこのポスターは馴染んでいたように思う。

生活の中のグッドデザインプロダクトって本来こんな距離感なのだろう。

数日後、茶色の筒が事務所に届いた。2回目の対面である。恐る恐る筒から引き出す。久しぶりの何かがこみ上げてくる、この不思議な感情。34年ぶりのゴダール・オールスターズはだいぶ表面が焼けていて、四隅に画鋲の後があった。コレクターなら気にするコンディションだと思うが、ボクにとってはウエルカムだった。帰国の時、なんの感傷もなく捨ててきた生活の一部がそのままの姿で戻ってきたかのようだったからだ。ホントはこの事務所に越してきて18年目にして初めて取り付けたウォシュレットがあまりに調子いいので、そのトイレの壁にバーンと貼ろうと思っていたが、生還した瞳たちになんとなく申し訳ないので飾るのをやめた・・・。

Manabu Kobayashi

Slowgun & Co President小林 学

1966年湘南・鵠沼生まれ。県立鎌倉高校卒業後、文化服装学院アパレルデザイン科入学。3年間ファッションの基礎を学ぶ。88年、卒業と同時にフランスへ遊学。パリとニースで古着と骨董、最新モードの試着に明け暮れる。今思えばこの91年までの3年間の体験がその後の人生を決定づけた。気の向くままに自分を知る人もほぼいない環境の中で趣味の世界に没頭できた事は大きかった。帰国後、南仏カルカッソンヌに本社のあるデニム、カジュアルウェアメーカーの企画として5年間活動。ヨーロッパでは日本製デニムの評価が高く、このジャンルであれば世界と互角に戦える事を痛感した。そこでデザイナーの職を辞して岡山の最新鋭の設備を持つデニム工場に就職。そこで3年間リアルな物作りを学ぶ。ここで古着全般の造詣に工場目線がプラスされた。岡山時代の後半は営業となって幾多のブランドのデニム企画生産に携わった。中でも97年ジルサンダーからの依頼でデニムを作り高い評価を得た。そして98年、満を持して自己のブランド「Slowgun & Co(スロウガン) / http://slowgun.jp 」をスタート。代官山の6畳4畳半のアパートから始まった。懐かしくて新しいを基本コンセプトに映画、音楽等のサブカルチャーとファッションをミックスした着心地の良いカジュアルウェアを提案し続け、現在は恵比寿に事務所を兼ね備えた直営店White*Slowgunがある。趣味は旅と食と買い物。