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STORY

必要とされないVゾーン

ここ5年ほどの間、毎シーズン企画させてもらっているインターナショナルギャラリー ビームスのオリジナルシャツ。春夏/秋冬の年二回、新型をリリースしているのだが毎回ご好評を頂き、ありがたいことにリピーターもかなり増えている。新作の企画に入るときはいつもメーカー様に生地をご提案いただき、30冊ほどの生地バンチと共にひとり会議室に籠ると、数百種類のスワッチに埋もれながら目に留まったものにポストイットを貼り付けていく。粗抜きした後、メールにて最新の在庫を確認後、実際に用意できる生地(この確認の時点で在庫切れ、と返答がくることも多々ある)の中から具体的に襟型や仕様を決めていく。もう何十回も繰り返している流れなので、自分なりにペースが掴めていた…のだが、今回はいつもと様子が少し違った。毎シーズン、Thomas MasonやAlbiniなどインポートの生地バンチから自分のイメージに合うものを選んでいたのだが、今回の在庫確認の返答を見て、僕は驚いた。20品番ほどピックアップしていたうち、実際に生地屋が在庫として持っていたのは僅か2種類。そんなことは今まであり得なかったのだが、やはり長引くコロナ禍で苦境に立たされているのは英国やイタリアの生地屋も同じようで、かなり限定された定番生地でしかバックストックを持たないようになっているらしい。僕が選ぶような、ビジネスではそもそも使えないような(趣味性・嗜好性がやたら強い)ドレスシャツ生地は当然、その「限定」から漏れることになる。勿論、スワッチはあるわけなので注文すれば生地屋は織ってくれるのだが、別注ミニマムを超えるような数十反スケールでは展開していないニッチなシリーズだし、今から織ってもらうようでは今シーズンの納期に全く間に合わないので、今回は輸入生地をあきらめることにした。代わりに手配して頂いた数百種類の国産生地スワッチに埋もれながら、僕は今シーズン「二度目の」孤独な会議室籠りに入った。


結果として、いままで目を通していた輸入のバンチではなかなか出てこないような面白い生地に数多く出会うことができた。そしてご覧の通り、所謂「ビジネスウェアとしてのドレスシャツ」には無い、洋服好きに刺さるセレクションが完成した。全体的にイメージしたのは「CHICAGOのワゴンで1000円均一で売ってそうな、70’s以降のレギュラー古着にありそうな、切なく枯れた色柄」をあくまでもハイクオリティで表現したもの。写真の他にもタブカラーのモデルなどを含め計13型をピックアップ。下段の2型は今シーズンの新モデルで、二度のサンプルチェックを経て作り上げた渾身のロングポイントカラー。せせこましく窮屈なタイスペースがなんとも新鮮である。


マスタードイエローのラウンドカラーは麻12%をブレンドしたコットン×リネン。この日は紙繊維のカーディガンやAscotのシルクニットタイでザラっと合わせている。

新型のロングポイントカラーは過剰なパターンオンパターンで。Atkinsons製アイリッシュポプリンのナロータイをはじめ、チェックのすれっからしたトーンが今の気分。

ネオンな発色がまぶしいマドラス調チェックのラウンドカラーシャツは、CHANEL調サマーツイードのブレザーとグレーパンツでまとめても良い意味ではみ出してくれる。 ビーズネックレスを足した分だけ、Hermèsのナローなニットタイでシャープに。

主役級マルチストライプのロングポイントカラーはそれ以上にマルチなストライプのヴィンテージラグベストを合わせて脇役扱い。狭いVゾーンにHermèsのカチナ柄プリントタイを更に詰め込んだ、マキシマムコーディネート。

結果的に、すべてタイドアップコーディネートになった。いや、今のご時世、ネクタイなんて頼まれてもしたくない人が俄然増えているはずだけど、僕の場合は頼まれもしないのにほとんど毎日ネクタイをしている。別に意固地になっているわけではなく、これはもう好みの問題でしかない。たしかに「仕事だからシャツ+ネクタイ」という概念はもはや絶滅の危機に瀕している。しかし、これだけ特徴的な襟型&柄のドレスシャツが一定数売れ続けているということは、「ジャケットやカーディガンのインナーは白無地のTシャツでサラッと…だなんて、真っ平御免っすわ!」な好事家が一定数存在するという事。ありがたいことに、そんな人たちに支えられながら、毎シーズン僕は薄ら笑いを浮かべつつ会議室で大量の生地に埋もれ続けているのである。

ところで、必要な分しかモノを持たないというミニマリストが時代と共に増えているが、場合によってはシャツ+タイの方が持ち物をミニマルに出来ると思うのは僕だけだろうか。例えば20日間、毎日違うVゾーンをコーディネートする場合。Tシャツだと20枚必要だけど、ネクタイ3本(黒ニットタイ、ネイビーのストライプ、ネイビーのドット)×シャツ7枚で21パターンってのもアリだったりして。しかもネクタイって、Tシャツと違って捨てないし。まぁ、そもそも「なんで毎日違うカッコしないといけないんだよ!」って罵声が聞こえてきそうな気もするけど。飽き性な方こそ是非、お試しあれ。シャツ+タイコーディネート。毎日発見がありますよ。


Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。