一度このオジサンに会ってみたいと思っていたところ、懇意にしているリフォームサロン「 SARTO 」代表の檀正也さんが、なんとこの彼と意気投合したらしく、日本でもオーダー会を開催するという。そして僕をソウルに誘ってくれたのだ。
ソウル中心部のグランドハイアット向かいにある「 B&TAILOR 」は、例えるなら青山の「タイユアタイ」を思わせるような内外装の洗練されたテーラーだった。オーナーでありマスターテーラーは、前述の白髭紳士パク・ジュンユルさんだったのだが、まさしく僕が想像したとおりの〝東洋的大人〟といったお方。表情ひとつ、握手のときの力の入り具合ひとつとっても完璧で、教科書に載っていてもおかしくない歴史上の偉人クラスのオーラが漂っているのだ。
そんな彼が「 B&TAILOR 」の技術や精神面を支える男だとしたら、もうひとり、「 B&TAILOR」の独特の東洋的センスの支柱として存在していたのが、息子のチャドさんだった。なんというか彼の雰囲気からは、欧米における30’sや40’sというよりは、まるで小林旭のような昭和テイストがうかがえる。それが狙っているのかいないのか分からない点がほんの少し不安ではあったのだが、ここは彼のセンスを信じて、僕もワイドパンツの昭和なダブルスーツをオーダーすることにした。ベージュのウール&カシミア生地を使って、ちょっとゆったりつくってほしいな! というのが僕のオーダー。
さて、パクさんによる凄まじく丁寧な採寸や2回の仮縫いを経て、数ヶ月後スーツは上がってきた。
写真で見るとイタリアのビスポークスーツみたいだが、縫製の繊細さはまさしくアジア的で、そのコントラストが「 B&TAILOR 」の独特なセンスを生み出していることがわかった。確かにモダンさもあるのだが、日本人の僕が着るとやはり〝昭和〟なテイストが漂って、それがなんだかしっくりくる。この、いい意味での〝昭和〟で〝アジア〟なセンスってのがポイントで、欧米のスタイルをどこよりも忠実に再現できてしまう日本のテーラーさんには、なかなか表現できない要素だと思うのだ。こういうテーラーの存在を知ると、日本にもそろそろ独自のスーツ文化が根付いてもいいんじゃないか、と思わざるをえない。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
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90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
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