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男を虜にするリネン(麻)の表情コルトレイク・100年物のリネン、ロマネコンティーの如し。

今から話すことを決して信じないで欲しい。
多分、作り話か勘違い、聞き違いの類いが積もり積もって俺の所に届いた、ほら、インディージョーンズで言えばジャングルの中にあるトレジャーハンター御用達酒場でのウワサ話・・みたいなものなのさ。
ある日、顧客から一通のメールが届いた。『最高に気持ちいいリネンの白いシャツを1枚。』
うーん、リネンか。普通なら伊ソルビアッティー社辺りの細番手のリネンで仕立てておけば許してもらえるのだろうが、否、この顧客は俺のリストの中でも最も注文の多いタイプの男。なのに今回は言葉少なめだ。さては俺を試してるな??ならばあいつに教えを乞うしかあるまい。あいつとは俺の同志で世の中に流通していない特殊な素材を何処からともなく融通してくる調達屋だ。
俺は奴にこう切り出した。『上代無制限で最高に気持ちのいいリネンってなんだ?』彼はニヤリと笑いながら答えた。『ジビエでもいいのか?』ジビエとは野生動物を食する言葉で生地とは全く関係ない。からかってるのか!と机を叩くと『まあ、聞けよ。』彼はゆっくりと語り始めた。
最も衣料用として質の高いリネン(フラックス)の産地は北フランスからベルギーまでの一帯で間違いないんだがこのフラックスって奴が厄介なんだよ。全くの自然まかせの原始的な植物でさ、気候によって作柄がえらく左右される。ここには人間の力なんて到底及ばない。ビニールハウスでマンゴーを育てるのとは訳が違う。だだっ広い荒野が相手だからな。彼は続ける。
結局ワインと同じなんだよ。年によってぶどうの善し悪しが違えば味も値段も違うだろ。作っている農家は知ってるんだよ。今年はジョセフの南斜面がアタリだな、とかオリビエんとこも良さそうだぜ。こんな感じに。だから有名なコルトレイクあたりにはヴィンテージのリネン糸が存在する。麻は紡績すると結構強くて100年は平気でもっちまう。だからアタリ年の織り糸は昔から埋蔵してるってうわさだ。寝かせば高くで取引されるからな。ヴィンテージ糸でゆっくり織られたリネン生地はな、水洗いする度に撚糸(糸の撚り)が戻ってくるんだよ。するとほんのり毛羽立ってきて一瞬わた状になるんだな。そして更に着込む、洗うを2〜3年繰り返すと毛羽がすっ飛んでマイクロピーチ状態になる。ここが見た目、着心地に於いても最高な状態ってわけだ。
イタリアの生地商のリネンは下味までついてパックされた肉みたいなものさ。まっそれでも十分美味いけどな。最初にジビエっていっただろ、コルトレイクの100年物はな、大地のミネラル十分吸って100年寝かせた野生なんだよ。その眠りを数年かけて目覚めさせるって訳だ。シャツにしてな。お前のお客さん、こういうのが好きなんだろ?
ただし、値段は聞くなよ。これは全てを越えちまった着道楽ジャンキー達の秘密の遊びなんだからさ。じゃあ、これで。
到底、奴にはかなわない。