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パーティのための男の装いGold Pyramid in Paris.

あと3日で俺は住み慣れたパリを離れ東へと向かう。もうここに戻る事は無いだろう。ミッションも全て完了し金も得た。しかし1つだけ心残りがあった。この街に着いた最初の夜、安ホテルのきしむベッドで見た夢、何か強い光と出会う・・・そんなおぼろげな明け方の浅い夢が叶わぬ夢となって消え去ろうとしている事、それなんだ。光の正体?それは俺にも解らない。ただのふわっとした残像さ・・・。

  引っ越し準備もあっけなく終わった。俺は長年の連れ、ステファンに最後の電話をかけ別れを告げた。そして奴にだけは心のわだかまっていた夢の話を伝えてみたんだ。すると奴は聞いたことも無い18区の住所を耳打ちしてくれた。奴曰く、そこはパリを離れる時、未練を持つ旅人が必ず立ち寄る骨董屋なのだそうだ。全く意味がわからねえ。位置的にはクリニャンクールの蚤の市の・・だいぶ外れのようだが・・・。
翌日、疑いながらも俺の足は自然とステファンが残してくれた住所へと向かっていた。『ここか!』そこは何とも薄暗く気味の悪い店だった。奥に目をやると1人の老人がこちらを見ている。『ステファンの紹介だ。探し物がある。』俺は奴から教えられた通りのセリフを言った。すると老人はこう切り出した『その探し物とはそなたの記憶の中の残像、だったかな?』多少の気恥ずかしさもあり、俺は軽く頷いた。すると老人は『これを身に付けてソワレに行きなさい。光の波形は同じ波を呼び寄せるものじゃよ・・・。』わかった。で、お代は?と聞くと『次の者の為に何かおいていってくれ。その小指のトリニティは必要か?』目ざといな、じいさん。だがもはやこんな物への執着も薄れていたので俺はテーブルの上に指輪を置き、老人から古ぼけたオレンジ色の箱を受け取った・・・。

部屋に着いた俺はその箱を開けた。中には金色の大きな鋲の様なカフスボタンが入っていた。『同じ光の波形???』既に荷造りを終えていたが、俺はシャルベのシャツにこのカフスボタンを着け、それにシフォネリのスーツを合わせる事にした。パリでもう一度こいつに袖を通すことになるとはな・・・。

俺は軽い足取りでルーブル美術館主催のパーティーへと出かけた。まぁ、パリ最後の夜としては悪くない。入り口でシャンパンを受け取ると閉館後の館内を堪能した。予想通り何も起こらない。『やはりステファンの奴に騙されたかな!?だがこんな旨い酒を飲みながらドラクロワを鑑賞出来た訳だし、良しとするか・・・。』俺は急に一服したくなり中庭への階段を上り外へ出た。
すっかり夜の帳に包まれたこの街、この風景も今宵限りだ。

『あの、ご一緒していいですか?人ごみがちょっと苦手で・・。』
ステファン、おい、ステファン!俺は自分の目を疑ったよ。パリ最初の夜のおぼろげだった夢の光が今、形となって俺の前に立っている。その大きな瞳、微笑みをたたえ、わずかに上がった口元、可愛いエクボ・・・。そして俺は彼女の左手首を注視した。『私も驚きました!お揃いなんですね。これ、メドールと言ってエルメスが90年代から作っている時計なんですけど、カフスボタンもあるんですね・・。』僅かな月夜の光でも、時折煌めく出会いのGOLD。俺はシルクの様なセーヌ越しの夜風を感じながら、いつまでもその金色の稜線を見つめていたかった。しかし煙草の火は無情にも葉のすべてを燃やし尽くし、俺はここにいる理由を失った。しばしの無言を突いて彼女は大きく目を見開き、息を詰まらせながらこう言った。『この中庭のルーブルのピラミッド、私たちのメドールとお揃い!パリの街ともお揃い!』神様や運命なんて信じた事のなかった俺だが、今宵だけはこの不思議な三位一体に身を任せてみたくなったよ。父と子と精霊、それはすなわち俺と彼女とパリの街。じゃあ俺たちを引き合わせてくれたこのメドールこそ、実は黄金のロザリオだったんだね・・・。