ということで「サイエンス」について私が知っていることは、英国のブランドであること。そして極めて職人気質で、デザイナー自らミシンを使ってコートを縫っているらしい、ということだけ。ネットで何でも調べられるこのご時世、いまどきここまで謎なブランドもそうないだろう。
僕はといえば、長年オークションサイトで検索していたのだけれど一切引っかかる気配もなく諦めかけていたところ、2年前にトゥモローランドが奇跡的に買い付けたタイミングで入手した。昔ながらのぶっとい袖や、クリーニングに出すたびにちょっとずつ色褪せていく、真っ赤なベンタイル生地の風合いがたまらない。いい意味で時代が止まっているというか、スーツの上に羽織るとズバリ90年代のテイストそのまんまを解凍したかのように見えるのである。
これを着ていると周囲からよく褒められるのだが、「サイエンス」と言っても今や私の同世代ですら誰も覚えておらず、寂しい思いをすることも多数。しかしこのあいだ Amvai の打ち合わせの際に MOJITO の山下さんが着ていた格好いいオイルドジャケットが、まさしく「サイエンス」のものだった。しかも rdv o globe の前淵俊介さんときたら、まさしく「マルセル・ラサンス」を日本に持ってきたお方であり、当然「サイエンス」のコートも大量に所有しているらしい。さすがは世界一コアなことで知られる AMVAR の面々。その知識はネットよりも深い。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。