俺は lady の楽団でサックスを吹いている。一年中旅から旅のモーテル暮らしさ。しかし1940年も後半にさしかかると俺たちのまわりで変化が起き始めたんだ。バドのやつが右手でとんでもないピアノ演奏を始めたんだ。それに呼応して JAZZ が音を立てて変わり始めたんだよ。Modern って奴にさ。まさにどこかの街のクラブで今夜伝説が起きている。俺はこれを" boy "に見せたかったんだ。本物の今を。演ってる俺たちは判ってるんだ、ジョンもバドもバードも自分があと10年は生きられないって事。皆、命と引き換えにレコード盤に溝を刻み込んでいるんだよ。もう俺たちは白いミルクしか口に入らねえんだよ・・・。
" boy ”は絵を描くのが好きだった。舞台のそでがあいつの指定席。そしてモデルは命がけのミュージシャン達。小さい体で手元を見ずにスウィングしながら描くあいつの絵は仲間から大人気さ。俺は鼻が高かった。俺が" boy ”を育てている。だが、実は" boy ”は、lady に一番なついていたんだ。ろくな食い物しかない演奏旅行中、lady はよくミートローフを作ってくれた。贅沢な話だろ。俺の" boy "はあの lady の手料理でここまで大きくなったんだよ。そんな俺たちのツアーは全米、欧州あわせて60都市にものぼる。気付けばあと5都市、クリスマスの NY で終わりさ。" boy ”との生活もな。
JAZZ、俺のJAZ 。パリ公演の時、通りがかりの時計屋で" boy ”が選んだフランス製の目覚まし時計。Zが1つ足りねえじゃないか。どうしても届かない、レスターの背中は見えているのに・・。何かが足りない俺の JAZZ。
" boy ”、あと何回おまえとこのゼンマイを巻くことが出来るのか?終わりに向かって巻くゼンマイなんて・・・。" boy ”、もうニュージャージーまで来ちまった。明日からV・ヴァンガードの3日間で今年が終わり、全てが終る。
" boy ”、今日で最後だ。しっかり見届けてくれ、レスターよりブロウしてみせるぜ、" boy "、しっかり描きとめてくれよ、俺の JAZ を。
Oh、" boy ”、終ったよ。でもなぜかゆったりした気分だ。おまえの寝顔を見ていられるのもあと数時間なのに・・・。これ、lady がお前にってくれたくちなしの花、確かに渡したよ。安心しな。ずっと横で起きているから・・・。
そして保護観察官は予定どうりにやってきて俺の" boy "を連れて行った。別れ際に" boy "は俺に紙袋を差し出した。一言『シカゴはあげない。』" boy ”、おまえらしいよ。大人に媚びることなんてないんだよ。
俺はベットに横たわり" boy "の紙袋をゆっくり開いた。なんと、中にはこの1年宿泊したモーテルのボールペンが順番どおりに美しく並べて貼ってあった。まるで湖にかかる桟橋の様に。インクの全ては使い切り、シカゴだけは外されていた。
この1年、俺が" boy ”を育てていたんじゃない。神の子" boy ”こそが JAZZ を育て、変わりゆくシーンの記録を後に残してくれていたんだ。それもモーテルのこんな安物の pen で・・・。
安心したよ" boy ”、ご褒美に神様が俺に Z を1つくれるってさ。だからもう JAZ のゼンマイは巻かないよ。ミルクを飲んで一寝入りするよ。
" boy ”、目を閉じたら、おまえとこの1年一緒に歩いた綺麗な橋が見えるよ。「気を付けて!」だって?分かってるさ、シカゴの踏み板なんて軽く飛び越えてやるさ。 end
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