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上質でモダンな主役マフラーパーマネントなマフラー

マフラーを一枚巻くだけで、体感気温は3℃上がるという。僕が愛用するのは春にも秋にも、もちろん冬にも活躍するカシミア製のマフラー。それは伊L社や英J社といった有名生地メーカーのものではなく、青山にあるショップ、Permanent Modern のカシミアパッチワークマフラーだ。耳慣れない店名かもしれないが、熊本出身の服好きならば全員が知っているこの名前。1970年代後半、ミウラ&サンズやビームスの創業時、つまり今で言う「セレクトショップ」の黎明期と時を同じくして火の国・熊本で勃興したワサモンファッション文化の急先鋒が現・Permanent Modernオーナーの有田正博氏だった。インターネットも携帯電話も無い時代に東京と同時代的(もしくはそれ以上)に海外のファッション文化を熊本に輸入していた有田氏の功績は、80年代に「日本一お洒落な街は熊本のシャワー通り」と全国に言わしめたことからも県民栄誉賞並のデカさである。って、業界の諸先輩方から見れば、氏が伝説のショップ「アウトドアスポーツ」「ブレーズ」を創業したころにようやく生まれたような若造が、(同じ熊本県人とは言え)知ったような口をきくなといったところか。ともかく3年前、熊本に次ぐ2号店として遂に東京進出を果たした Permanent Modern をオープン直後に覗いてみた。メゾン系ブランドの旗艦店が立ち並ぶ青山エリアにあって、一際異彩を放つ空間と品揃え。基本的にレディース中心のセレクトだが、一部ユニセックスで身に付けられるアイテムもある。古着のカシミアセーターを解体し、ダイヤ柄にパッチワークしたマフラーを見つけた僕は5~6種類(すべて一点もの)ある配色の中から1枚を選んだ。グルリと巻くだけで形になりやすい質感やサイズ感が良いのは勿論だが、このアーティスティックなカラーリングセンスにグッときたのだ。この記事を書くために2012年発行の小冊子「talking about」に掲載された有田氏のインタビューを本棚から引っ張り出して、読み返した。「自分が売っているのは洋服ではなく、ファッションでアートなんだって思っていました。今でもそう思っていますよ。形は服や靴かもしれないけど、芸術やってるんだという気持ちです」とあった。思わず涙した。しばしば世間を騒がせるのはマーケットを熟知したデザイナーによるゲームのようなファッションだったりするが、人の心を震わせるのはこういった個人的な信念だったりする。このマフラーを巻くだけで、僕の洋服屋温度は3℃上がる。