社会主義国ゆえの融通のきかなさや、ホテルのコンディションの悪さなどトラブルは多々あったものの、僕のような懐古趣味的撮影旅行者にとってハバナは天国。カメラを向けると喜んで笑顔を向けてくれる、人懐っこい住人たち。スペイン領時代にできた、朽ちかけてはいるものの奇跡的に美しい街並み。そして街中を悠々と走り抜ける、米国傀儡政権時代のアメ車たち・・・。あと写真を撮る上では広告とかチェーン店の類が一切ないのが最高。ファッション誌の撮影ってそういう〝俗っぽい要素〟を取り除くのに苦労するのだが、キューバに関してはなにも引くところがないのだ。ちなみにみんなが辟易する豆煮込み攻めも、僕的には毎日でもアリだった。
さすが社会主義国だけあって、洋服屋の類がほとんどないハバナにおいて、数少ないネタといえるのが、このシャツだろうか。「キューバシャツ」、または「グアベヤラ」といわれる4つボタンのワークシャツである。日本では90年代後半あたりに古着市場で流行ったり、GDC などのドメスティックブランドがつくっていた記憶があるが、本チャンを見るのは生まれてはじめて。ショップをいくつか覗いてみたのだが、生地や縫製、ボタンなどに難がある個体が多く、ホテルの土産物屋の中でいちばんマシな「 CRIOLLA 」というブランドのものを3枚購入してみた。縫製はちょっと雑でそこらじゅうで糸が飛び出しているのだが、生地はリネン100%でなかなか上質。余計な刺繍もなく、これなら日本でも、スラックスなどに合わせて着られそうだ。
キューバの人曰く「農作業時にグアバの実を入れるため」といっていた4つのポケットはさておき、フロントのプリーツや肩やら裾に施されたボタンの数々は少々装飾的で、いったい何の意味があるのか謎。民族衣装って、ミリタリーウエアのように機能一辺倒でもないところが面白い。
ちなみにこういうものを今着ているのはだいたい観光客なのだが、現地流に着こなす場合は1サイズダウンが鉄則らしい。そういえば現地の人って男も女も洋服をタイトに着こなす傾向が強く、制服ですらパツパツなのだ。看護師や入国管理のお姉さんなんて、もはやコスプレである。こんな暑い国でなぜに?とは思うが、それこそがキューバなのである。僕は日和ってオーバーサイズを買ったのだが、1度洗ったらパツパツに縮んでしまった。・・・これもキューバ流!
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