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着こなしの春夏シャツかわいくないシャツ

お題は春夏のシャツ。春らしいかどうかは別として、たまに着たくなるシャツをご紹介します。フィンランドのテキスタイルメーカー・Marimekko のシャツ「 JOKAPOIKA (ヨカポイカ)」です。
ヨタヨタといびつに曲がった手描きのストライプは、1956年に Vuokko Eskolin-Nurmesniemi(ヴォッコ エスコリン-ヌルメスニエミ)がデザインした「 PICCOLO 」という名前の柄です。半世紀以上もの間変わらぬデザインで生産され続けているこのシャツを、学生時代(20年前)に渋谷の BEAMS TIME で初めて見たときは「何とヘンテコなシャツだろうか」と思いました。ヴィヴィッドすぎる色。襟型は小さめのワイドスプレッドですが、ワンピースなのでオープンカラーのように開いて着ることもできます。ヨーク無しのバックスタイルはテキスタイルの柄を最大限生かすシンプルなもの。2つの色を重ねるようにプリントされたストライプは、色と色の間に3つ目の色が浮かび上がるように計算されています。ボタンは薄くて軽い、チープなメタル素材。戦後の貧しい時代に材料費を切り詰めた結果、マッチ工場の作業服に使われていたメタル製ボタンをそのまま使用したことがはじまりだとか。アキ・カウリスマキの映画で『マッチ工場の少女』という作品がありますが、戦後のフィンランドではマッチ産業が盛んだったのでしょうか?ともかく、他のカウリスマキ作品と同様にほとんど救いようのない、悲しくて暗いこの映画は、日和見の日本人が持つ「フィンランド=のんびり、ほっこり、意外とおしゃれ」的なイメージを木っ端微塵に粉砕して余りある薄幸感に溢れています。日本人の勝手なフィンランド観の象徴に(今や)なってしまった Marimekko ですが、それってホントに「カワイイ」の??工業製品(ボタン)を装飾に転化するあたり、ギリギリの状況から生まれたモダニズムを感じますが。そもそも、北欧ファッション全般によく見られる「日本人ではちょっと思いつきそうにない鮮やかな発色」は日照時間が短い彼の地ならではの「空が暗いのならば、せめて衣服くらいは明るく」という悲しさに包まれています。アーティストや建築家など、ネクタイをしなくても許される人々が好んで着用したと言われる JOKAPOIKA。最近ではスリムフィット、裾がラウンドカットの今っぽいアップデートモデルもありますが、やっぱり JOKAPOIKA には裾が一直線に切られた寸胴で四角いボディの素っ気なさが似合います。「カワイイ」よりも、むしろ三宅一生の服を選ぶような自立したマインドで着こなしたいシャツです。シュッと擦ったマッチの灯りがフッと消えてしまう、その刹那。火を失ってなお、あなたの心に残り続けるものこそが真のアイデンティティだと言わんばかりの静かな強さでこのシャツは語りけてきます。「 JOKAPOIKA 」とはフィンランド語で「すべての少年たち」を意味します。このシャツに象徴されるフィンランドとは決して「癒し」などではありません。少年のような勤勉さと冒険心、そしてまっすぐな「強さ」なのです。