一方、ピッティ周辺の「トレンドをかなり意識しているクラシックブランド」界隈では、プリーツ入りのテーパードパンツが旬なようです。ウエストにはベルトループの代わりにサイドアジャスターが付いていたり、ヒップポケットが右側だけだったりと、所謂オーダースーツ屋の組下パンツをデザイン的に取り入れた「クラシックモチーフ」タイプ。ただ、(少しずつ深くなってきたとは言え)相変わらず股上はそこそこ浅いままなので根本的にはノープリーツ全盛期のパンツと大差ない着こなしを楽しむことができます。なぜ?って、それはジャケットの着丈が相変わらず短いままだから。
普通は内側向きのプリーツが2つも入るなら、パンツの股上はグッと深くなり、パンツのウエスト位置が高くなれば上着の着丈は長くなり、結果として上着のシェイプ位置はやや低くなるものだと思うのですが。それでも上着の着丈は長くならない。つまり上着のバランスが変わらない限りパンツに起こりうる変化は「微妙な腰位置のアップ&ダウンとシルエットに劇的な影響が出ない程度(プリーツが浅いなど)のディテール変更」に留まるという…。昨年くらいからコートの丈は長くなりはじめましたが、今後パンツのシルエットが大きく変化するかはジャケットの肩、着丈次第といった感じ?
もうひとつは裾幅問題。裾幅が18cm前後をいったり来たりしているようでは上着のショルダーラインはカッチリには戻らないでしょう。やっぱりなだらかな肩線と短い着丈にはスリムな裾、構築的な肩と長めの着丈には幅広の裾が似合う、と思うのです。ビートルズのスーツとムッシュ・サンローランのスーツの違いです。
ちなみにパンツの裾幅が広くなると、自然と長めに丈上げするようになります。裾幅18cmのテーパードパンツをくるぶし丈で穿いているうちはボリュームのあるブサイク靴しか結局似合わない。つまりジャケットの着丈が長くなればパンツの裾幅が広がり、エレガントなシェイプの靴が流行る。風が吹けば桶屋が儲かる、よりは確実な話だと思いますが…。
僕はイカリ肩。脚だって長くない。だからなのか、上着はカッチリしたショルダーラインのもの、着丈は長い(ヒップがきちんと隠れる)ものが好きです。特に昨年秋に購入した E.Tautz の上着は4つ釦ダブルでシェイプやゴージの位置も低く、着丈もバッチリ長め。当然ボトムにもボリュームが欲しくなります。ここで登場するのが2015年に買った Maison Margiela のワイドパンツ。深いプリーツが2つ入ったゆったりまっすぐなシルエットで、裾幅はナント32cm。この裾幅が四角いジャケットと相まって全体を長方形のシルエットに仕上げてくれます。クラシック業界の流れとは一線を画したフォルムですが…。この裾まで太いワイドパンツ、個人的には昔から好きで、他にも ALEXIS MABILLE や P.M. e B.A. ( Gucci や Alexander McQueen のパンツ生産を請け負うファクトリーブランド)のものなど、数本所有しています。不思議と英国ビスポークの構築的な上着や僕のイカリ肩にもこの裾幅が合うんです。ということで、結論。「美脚」なんて無いものねだりのパンツ問題で悩むくらいなら、いっそトップスを取り替えて全体のバランスを再考してみる方が近道だったりして、という話でした。人間の体型の数だけ答えがある、という多様性にこそファッションの面白さが隠されていると思います。
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