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STORY

イマジンするスーツ

最近ハマっているスーツスタイルがレイト60's~アーリー70'sスタイル。1969年、オルタモントの悲劇やマンソンファミリーの台頭を契機に、ヒッピーによる甘い共同体幻想もすっかり終焉してしまったかに思えたアメリカ。だがしかし、その後の1970年代に入っても尚、夢想を追いかけた続けた一人の男がニューヨークにいた。その名は、ジョン・ウィンストン・レノン。キリストもブッダもビートルズも信じない、僕は自分とヨーコのみを信じると言い放った、あの男だ。ジョージ・ハリスンがビートルズへ持ち込んできたインド思想と、フルクサスのメンバーであったオノ・ヨーコの芸術活動から同時に影響を受け、ストロベリーフィールズの不良少年からラジカルな革命主義者へと変貌を遂げた、あの男だ。

なぜ、そんな話をするのかというと最近僕が気に入っているスーツがrenomaのものだからだ。renomaといえば「デパートのタオル/ハンカチ売り場しか思い出さない」という人もいるだろうし、実際に僕も10年前まではそうだった。

シェイプ位置が高く縦長いシルエットの2Bピークドスタイルを見て、ピンと来た方は音楽通。または服オタク(笑)。ジョン・レノンが「イマジン」(1971)のMVの中でピアノを弾きながら着ているあのジャケットこそ、モーリス・レノマによるrenoma製のものなのだ。ジョンのモデルはベルベット素材に小紋柄の刺繍が入ったジャケットだけど、僕のはチャコールグレーのチョークストライプスーツ。

 ネクタイは何故かフランス製のdunhill(古着)。まさにデパートのタオル売り場のようなブランド合わせ。

紳士服の仕立屋を父に持つ、ミッシェルとモーリスのレノマ兄弟によって、1963年、パリの高級住宅街である16区のポンプ通りに突如現れた、深夜まで開いているブティック「ホワイト ハウス」にはブリジッド・バルドー、サルバドール・ダリ、シルヴィ・ヴァルタン、アンディ・ウォーホルまでが通ったという。かのセルジュ・ゲンズブールも、renomaが無名の頃からのお客らしい。

ジョンのイマジンジャケットをベースに、日本製のこのスーツを手掛けたのは、日本が誇るミスター・マニアック=CLASSの堀切道之氏。10年ほど前からrenomaのアーカイブに着想した国内ラインを不定期でディレクションしている。堀切氏の歴史に対するリスペクトの大きさと洋服そのものへ向かう謙虚な姿勢からか、セレクトショップ店員や洋服オタクの人々など、かなり限定された人種に濃密で圧倒的な支持を得ている点はCLASSと同様か。

スーツにはパット・ド・エレファン(象の足)と呼ばれる裾広がりのパンツがセットアップされている。パターンや内側の作りは超絶クラシック。フレアシルエットに合わせたのはGUIDIのフロントジップブーツ、PL1。 クラシックなハンドメイドで現代的なデザインを表現したこの靴がピッタリとくる。裾のダブル幅は極厚に5.5cm取ってみた。

ポストコロナ時代に、粉々と散った夢はきっと世の中に数えきれないほどあるのだろうけれど、やっぱり今こそ力が欲しい。ジョン・レノンもモーリス・レノマも(もはや堀切氏もそうであるように)、人は夢想家と笑うかもしれない先人たちが、僕らに与えてくれたような力が。つまり、パワー・トゥ・ザ・ピープルであり、どんな新型のウイルスがやってこようとも、人が想像することだけは止めることが出来ない。この一着は僕にとってまさに、イマジンするスーツだ。そしてきっと、But I'm not the only one。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。