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STORY

白日夢的接客体験 『スターウォーズ ★ オビ=ワン・ケノービ からの伝言』

その店を出た直後、「ヤバい、新しい価値観の扉が開いちまった。この好奇心、もう抑えられねーや・・・。」こんなレベルの接客にありつけるのは一生で2〜3回あるかないかでしょう。入手プロセスを大事にするお買い物マニア達はそんな運命の店&師に出会う為に、日夜街中を徘徊している様なものなのです・・・・・。
7月の少し蒸し暑い日曜日の昼下がり、急に夕方まで降って涌いた様に自由な時間が出来たんです。しかし、映画館などは夏休み前で完全に消化試合気味なラインナップ。よし、ここはかねてより気になっていた新宿西口、昭和の頃からほぼ時間の止まっている中古カメラ魔宮殿地帯を表敬訪問するぞ!と心に決め山手線へ・・。実はデジタル一眼からのカメラデビューであるボクにとって、フィルム向け機材主体の中古魔宮殿は敷居が高すぎて覗いた事すら無かったのだ。たまたまかも知れないが、中古カメラ屋とジャズレコード屋とヴィンテージギター屋の初老の店主はこちらを「トーシロ」と見抜くや否や接客のアプローチを露骨に変えてくる。たぶん今までにデリカシーの無い素人に商品を荒く扱われた経験が度重った事による人格形成であろう。無論、悪意がない事は解っているのだが・・・。

そしてボクは魔宮殿の中でもジャンクと銘玉が(名作レンズの昭和的表現)まさに玉石混淆、ガラスケースに押し込まれている有名店に入った。人ひとりすれ違えない狭い店内にはウワサ通りの機材が積上っている。あたかもスターウォーズ初代作、ハンソロがプレミアムファルコン号の修理パーツを探しに行ったあの砂煙のジャンク屋のようだ・・・。先客が5人程立ち去った
のを見計らってボクは店員さんに勇気を持って話しかけてみた。
「あのー、古いレンズ、初めてなんですけど、標準レンズでオススメありますか?」コミュニケーションのきっかけとしては極めて無難な滑り出しである。「フォーマットは?」これはカメラ本体とレンズを繋ぐ関節部分の呼び名でメーカーを聞かれている事に等しい。「ニコンのFです。」「カメラ持って来た?」ハイ、と答え、ボクのトレードマークのMisfits クリムゾン・ゴーストのワッペン付きカメラバックから、買い替えて1週間も間もないカメラを取り出した。
後になって思えば、この取り出した瞬間でボクへの接客プログラムは決まった気がした。カメラの持ち方だけでおおよその写真歴は読まれてしまうのだ。ホームラン狙いのアマチュア・・・。「兄さん普段なに撮るの?」85ミリのレンズを付けていたので「ポートレイトですが夜専門です。」と、ちょっと意味深なジャブを打ってみた。「あと、商品の物撮りで、雰囲気写真です・・・。」ボクの心を読み切ったオビ=ワンは、「写真を撮りにイキたいんだよね?撮れちゃうレンズじゃなくて・・・。」うーん深い。「一応標準周辺の良いやつはね・・・」とオビワンはニコン60年の歴史を約3分間でしゃべり倒した。フムフム・・・。ボクはそんな生き字引オビワンに聞いてみたいことがあった。「ノクトあたりはどうなんですか?」ノクトとはニコンから1977年に発表されたノクターンを語源とする夜の撮影専門のレンズで、星空や少ない光の中で威力を発揮する。夜好きのボクとしては夢のレンズだった。中古で50万近い怪物プレ値付きレンズなのだ。「あれは補正とコーティングに手間がかかってるだけ。兄さんの撮りたい物とは逆で、正しさを極めたNHKみたいなレンズさ。おれは興味ないし値段の根拠もわかんない。」オビ=ワンは神レンズ、ノクトですらライトセーバーで一刀両断にした。「ちょっとまって」オビワンはガラスケースから2本のレンズを取り出し、「兄さん、外いこ、試したいでしょ?」初対面から約20分、いきなり野外でのフォースの覚醒実験と相成った。正直使い慣れたD700ならまだしも手にして1週間のプロ機で、見られながらの試写、そして感想をこのオビ=ワンに述べるのには流石に気が重かった。
しかし、あまりの暑さと西日で早々に地下の店内に引き上げた。「やっぱりちゃんとAi化された55・F1.2じゃないとダメだな。」オビ=ワンはいきなり話し出した。40年前のレンズを最近のデジタル機に装着し機能を持たすには細かな条件が伴うのだ。「そのちゃんとAi化された77年〜81年製造タイプはこちらにありますか?」と聞くと「うちにはないな・・・。」これだけ在庫があってもボクにジャストフィットする物は無いと言うオビ=ワンがいつの間にか頼もしく思えてきた。「あっ、良いのがあるよ。ライカRと言ってライカの1眼用レンズでさ、R 50mmズミクロンF2これ気に入ると思うよ。」「ニコンに付くんっすか?」と聞き返すと「横浜の◯△□商会に持って行きな。改造やってるから。」怪しい、怪しすぎる。「そのズミクロンはこの店にはあるんですか?」その答えは案の定「うちにはないよ。」「兄さん、肌の階調が欲しいんでしょ?ニコン慣れしてたらズミクロンの色は驚くよ。ホント良いレンズ。」銀河系の星の数程の在庫を持つこの店で、無い物をひたすら勧めるオビ=ワン・ケノービ。店の売り上げより、客の技術向上を目指す騎士。そんな彼は、実際の撮影者から機材・スペックマニアまで、あらゆるニーズに対応する新宿西口のマスター・オブ・ジェダイだった。濃密な45分間をありがとうございました。どうやら宇宙への扉は開かれたようです・・・。
Manabu Kobayashi

Slowgun & Co President小林 学

1966年湘南・鵠沼生まれ。県立鎌倉高校卒業後、文化服装学院アパレルデザイン科入学。3年間ファッションの基礎を学ぶ。88年、卒業と同時にフランスへ遊学。パリとニースで古着と骨董、最新モードの試着に明け暮れる。今思えばこの91年までの3年間の体験がその後の人生を決定づけた。気の向くままに自分を知る人もほぼいない環境の中で趣味の世界に没頭できた事は大きかった。帰国後、南仏カルカッソンヌに本社のあるデニム、カジュアルウェアメーカーの企画として5年間活動。ヨーロッパでは日本製デニムの評価が高く、このジャンルであれば世界と互角に戦える事を痛感した。そこでデザイナーの職を辞して岡山の最新鋭の設備を持つデニム工場に就職。そこで3年間リアルな物作りを学ぶ。ここで古着全般の造詣に工場目線がプラスされた。岡山時代の後半は営業となって幾多のブランドのデニム企画生産に携わった。中でも97年ジルサンダーからの依頼でデニムを作り高い評価を得た。そして98年、満を持して自己のブランド「Slowgun & Co(スロウガン) / http://slowgun.jp 」をスタート。代官山の6畳4畳半のアパートから始まった。懐かしくて新しいを基本コンセプトに映画、音楽等のサブカルチャーとファッションをミックスした着心地の良いカジュアルウェアを提案し続け、現在は恵比寿に事務所を兼ね備えた直営店White*Slowgunがある。趣味は旅と食と買い物。

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