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伝えたい文房具大阪・伝説のセレクトショップオーナー・K夫妻から最後に頂いたペンケース。

ちょうど1年前まで大阪・丸ビルの地下に風変わりな名前の店があった。しかし今はもうない。オーナーはKご夫妻。ファブリックへの造詣はマリアナ海溝より深く、製造に於けるデメリットの予測力もまさにプロ中のプロであった。お二人の接客、商品説明はちょっとしたエンターテイメント的な嗜好だ。顧客陣はあらゆる物に飽きてしまった関西圏から全国をも網羅するそんなプロダクト・マニアの面々。金額はさほど重要ではなく、Kさんの物静かなテンションから繰り出される重厚な商品説明を求めて集まって来ているとでも言おうか? ボクも展示会にいらっしゃる度にKさんの進行中プロジェクト話を伺うのが楽しみだった。世の希少材料を、独特の感性を持った職人が仕立て上げる、これがショップオリジナルプロダクトの基本スタイルだった。そんなK夫妻が昨年のちょうど今頃、スロウガン事務所までわざわざ閉店のご挨拶にお越し頂いた。職人の世界も昨今の世代交代で、思う様な物作りが出来ず、1度リセットしたくなった、がその理由であった。そしてその時、手渡されたのが写真のペンケースだった。ベジタン鞣しのディアスキン・ヌメで手裁ちの素朴な面持ちの逸品。これを顧客の皆さんに「ありがとう」のメッセージを添えてお渡ししたのだそうだ。そこにはペンが4本入るスペースがある。この Amvai の写真では、かみさんのコレクションでモンブランのミューズエディション、グレタ・ガルボのボールペンと、作家シリーズのフィッツジェラルドの万年筆、娘の多色ボールペンを借りて撮影した。今までのKさんの歩まれたいばらのプロダクト道を思えば、なまじの筆記具では釣り合わない。さて、ボクならボクチョイスでこの4本入るスペースにどんなペンを差すのであろうか? 実は頭の中では既に候補の筆記具がほぼセットされている。そのイメージとは1930年代に作られた物縛りで4本揃える事。そしてペンのボディーの質感、色の退色感が伝説的に美しい物をチョイスのセンターに据える事。例えば、モンブランのコーラル(珊瑚)と呼ばれる30年代製造の幻のシリーズでモンブランでは珍しい朱赤のボディ、とまあ、この様な物たちのことだ。1992年から始まった作家シリーズのトップバッター「へミングウェイ」もこのコーラルがデザインベースにもなっている隠れた名品である。このコーラルで万年筆とポールペンを何とか入手したい。そしてシャーペンは、英 YARD-O-LED社製の純銀アールデコデザインの1.18径のもの。1926年パリ万博直後からの銀製アールデコ物のオーラは京都の銀閣寺にも匹敵する。銀は重いけど柔らかいのでコンディションを横目で見ながらじっくり探したい。そしてスペースは残りの1本分となる訳だ。ここはあえて焦らずブランクとしておこう。埋めなければならない使命があれば、海外旅行先でのモチベーションもキープ出来る。その事を喜びとしよう。そして4つ目のスペースが埋まった頃、またご夫妻にお会いしたいと切に願うのである。
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