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手元で馴染んだオーダー品オーダースーツの掟

今まで色々なテーラーで洋服をつくってきたけれど、結果たどり着いたのは、決して「オーダー=一生モノ」とは限らないんだなぁ、という現実。だから僕の場合、「その時の気分をデザイナー気分で味わう」オーダーと、「自分にとってのスタンダード」をつくるためのオーダーとを、明確に線引きしている。前者の場合こちらの言うことを聞いてくれるお店を選ぶけれど、長年着られるスタンダードをつくるためには、僕のように飽きっぽい男の言うことを聞いてくれるようなお店じゃダメ。「お前はこうするべきだ」とはっきり言ってくれて、しかもその意見に説得力がある、カリスマ性のあるテーラーでなくてはいけない。
僕にとってそんなテーラーのひとりが、東京・渋谷にある「テーラーケイド」の店主、山本祐平さんである。オーダーだからって、この方は客の言いなりになんてならない。黄金期のアメリカントラッドを中心とした確固たるハウススタイルを持ち、大抵の客は1着目にそれをつくらなくてはいけない。この魅力がわからないヤツなんてお断り、なのだ。
僕がはじめてこちらで注文したのは11年ほど前。ブルックス・ブラザーズが20世紀初頭につくった「ナンバーワン・サックスーツ」を源流にもつ、いわゆる「1型(いちがた)」のスリーピースである。こちらの特徴は、肩パッドのないナチュラルショルダー、段返りの3つボタン、センターフックベンツ、ミシンステッチetc.。イタリアのスーツのようにハンドメイド感を誇示したり、カラダに対して厳密に合わせたり、裏地に凝ったりはしておらず、いわゆる〝オーダーっぽくない〟というかむしろ〝既製品っぽい〟のだが、それこそがこのスーツの魅力。フィット感の流行に流されずどんな体型にも合うし、そして何より着る人をこざっぱりと健康的に見せてくれるのだ。
その後「テーラーケイド」では1970年代のウディ・アレンをイメージしたコーデュロイやツイードのスーツ、そして小津安二郎にインスパイアされたレギュラーカラーのホワイトシャツなどをオーダーしてきたが、どれもいまだにワードローブの一軍として大活躍している。最初は素っ気なく見えたその表情も、着るほどに味わいを増していくから、今となっては大正解だったと思う。今年はフランスのアーティストをイメージしたリネンスーツを注文しているが、選んだのはほぼ生地のみ。ムードだけ共有したらあとは全部お任せである。
オーダーというとつい自分のこだわりをてんこ盛りにしたくなるが、所詮僕たちは素人。信頼できるつくり手にお任せしてしまうのが、長年着られる洋服を手に入れるための必須条件かもしれない。