W.BILL LONDONのツイードはシェットランドウールのざっくりとした質感で、厚みの割にそれほど重たくない。同じスワッチにはネズミ色やオリーブなどダークトーンの色違いもあったが、僕は白っぽいカラフルなミックス配色のものを選んだ。裏地は表地の色糸から一色拾ったオレンジをチョイス。どうしてもイギリス製のツイードジャケットというとガッチリ重厚なものになってしまうので、できるだけ軽快なイメージにオーダーしたかった。作りはがっちりイギリス式なので、色目はあえて(裏地のオレンジ色も含め)H社みたいな柔らかいフランスタッチのイメージに、とはさすがに言えなかったが(笑)。
生地が決まるとあとは形。基本的にフィッティングに関してはテーラーに任せて自分の体型なりに仕上げてもらった方がうまくいくと思っているので、余計な詮索はしない。仮縫い(Fitting)のときに微修正してもらうのみ。上着は3着目なので既にあるデータを基にメジャーリングも簡単に済ませ、あとはディテールを決める。当然、ネズミ色やオリーブ、ブラウン系のツイードに比べると白っぽいツイードの方がややドレッシー?というか高貴な印象に仕上がる。そこでちょっとばかり冒険を。フロントボタンをシングルブレストの1つボタンにしてみた。1Bといえばディナー・ジャケットと同じボタン数。つまりドレッシーなディテールにあたる。雨風を防ぐ為のツイード製スポーツコートに(打ち合わせが最も浅くなる)1つボタンのチョイスは本来ミスマッチ。しかし、初めてオーダーしたスーツが1Bではなく2Bで間違って上がってきたリベンジ、という訳ではないが(笑)、Peter Harveyが得意とする「構築的なショルダーライン、直線的なノッチドラペル、1B」に代表されるHuntsman Styleをスポーツコートで実践することにした。他はセミスラントのフラップポケット+チェンジポケット、サイドベンツなどスポーツコートとしてはノーマルな仕様に。ビスポークには「スポーティー」と「ドレッシー」を掛け合わせたディテール遊びみたいなところがある。こと、英国製カントリーウェアに関してはスポーティーなディテールばかりをてんこ盛りにオーダーすると、やたら本格的になるのはいいが「その上着でなぜ馬に乗らないのか?」みたいな一着が出来上がってしまう。実際に乗馬クラブやツイードラン用に作るのならば、それも一興だが、僕は東武線と山手線を乗り継ぐのみなので「白っぽい1B」くらいがちょうどいい。
ちなみにこの上着をオーダーした日は1990年から25年に渡り来日していたFallan&Harveyオーダー会の最終日。夕方から降り始めた雪は記録的豪雪となり都心の交通は麻痺、お店は18時閉店。閉店後もビスポークのお客様を念のため待つことにして20時まで僕ら担当者だけで在店した。もて余した時間でオーダーしたこのスポーツコートは、もしかするとアスファルトを全て覆い隠してしまうほどに降り積もる真っ白な雪に少しばかりイメージを引っ張られたのかもしれない。結果的にこの一着はPeter Harveyが日本で受けた最後のオーダーとなった。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
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90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
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