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着られない服『着られない服』を買う、デザイナーの心理とは?

ボクが洋服を購入する時、最も重要視する事はそのものが持つオーラの量なのです。着る事が出来るかなんてもはや二の次。ちょっと難しいですよね。

例えば1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツがあったとして、100番単糸級(髪の毛のちょい太位)の極細織り糸でボタンホールは全て手縫い、背ヨークやカフスには踊る様なギャザーがたっぷり入っている。作られてから約100年、2度の大戦をくぐり抜け、いまボクの手の中にあるこのシャツからはフランス映画1本分以上のドラマが宿っているように見える。ここまで揃えばお財布の許す限り購入確定です。着用目線そっちのけです。

さて、ここからがクリエイターとしての性がゾワゾワ騒ぎ出します。このディープなオーラを再現したい衝動に駆られるって訳です。まずはよく観察する。生地幅から察するにどうやら手機の手織りらしいのだ。麻糸は伸度に乏しく茹でる前のそうめんのようなものなのでムリをすればプツリ、節に当たる度にプツリと糸が切れてしまう。これが手織りならばいわゆる手加減で限界まで高密度に打ち込めるのだ。現代の低速シャトル機でも無理すればプツリとイってしまう。この車も自動運転の世の中で、織れないシャツ生地があるんです。こんな不可能が可視化された1着なら、たとえ着られなくても欲しい情報がパンパンに入ってるんです。欲しくなる心理と言うのは、冒頭のオーラの量って不可能な事がどの位入っているか?誰もやりたがらない事がどの位なされているか?そのアタリのディテールの見え隠れでグッと込み上げてくるものなんでしょう。

こんな感じで服を着る前提でもはや見る事が出来ないんですよねー。職業病みたいなものです。しかし、このオーラ、実は中古だけではありません。例えば突然どこかの国に現れた圧倒的な天才デザイナーが思いつきで作った服。明らかに時代を押し進めている1着。試着すると、今までの自分の努力はこの1着の先見性を理解することで精一杯、ちぇっ、天才にはかなわないぜ、などと捨てゼリフをはきつつも買っちゃうんだなーこれが。やはり次世代を感じるオーラにも果敢に反応してしまうのでした。まぁ、この場合もあまりサイズのことは気にしないかな。オーラ100点のマイサイズなんてはなから期待していないのだ。いわゆるファッションデザイナーの元ネタハンティングの買い回りなんてみんなこの調子だと思います。

でも、ボクにはアノ手がありますから。お母さんが、お兄ちゃんのお下がりを弟のサイズにカスタムする様な、フランスの農民が直して直して直しまくるとてつもないリペア古着なんてあるじゃないですか!あの魂をもってミシンに向かえばあらゆる服はマイサイズ!だから『着られないままの服』なんてボクにはありえないんです。