お題は春に着るコート。この時期のアウターは「冬服に飽きた気持ちをアゲてくれる春らしい軽やかさ」と「まだ冷たい風を防いでくれるそれなりの防寒性」を兼ね備えたものが望ましい。実はこの春、暖かくなるのを待って早く着用したいコートが自宅にスタンバイ済み。冬のうちに古着で入手しておいた Aquascutum のバルマカーンコート(和製英語のステンカラーコートとほぼ同義)である。同社のバルマカーンコートやトレンチコートと言えば「 Aqua5 」と呼ばれるコットンギャバジンを使用したものが定番。現行は勿論、英国古着屋に行けばヴィンテージもそれなりのプライスで手に入るだろう。1959年に誕生した「 Aqua5 」は綿100%の撥水素材という売り文句で、この素材の発表会ではコートにシャンパンをジャブジャブ浴びせて「ほら、ちゃんと水をはじくでしょ?」というデモンストレーションが行われたと言う。(シャンパンだけに)なんとバブルなエピソードか。戯言はさておき、同社のブランド名は「アクア(水)」と「スキュータム(盾)」に由来すると言うくらいなので、英国軍に供給していたウール製の防水アビエーターコートをはじめ「水」とは切っても切れない関係性。Aquascutum と言えば『カサブランカ』('42)のハンフリー・ボガートが雨の中ずぶ濡れになりながら着ていたトレンチコートであったが、様々な検証の結果どうやら件のコートは Aquascutum のものではなかったらしいという説も…。ともかく、トレンチにしてもバルマカーンにしてもコットンギャバジンのコートは男性のアウターの代名詞的存在。どうしてもボギーやスティーブ・マックイーンの様な男っぽさが欲しくなる。ところが僕は九州男児の割にルックスがさほど男っぽくない。ないものはしょうがない。ということで、我が家にスタンバイしている Aquascutum はチェック柄。しかもポリエステル×ビスコースの「 Aqualene 」なる素材。70年代の古着なので、つまり化学繊維全盛の時代に Aquascutum が開発したウソくさい(?)生地らしい。カサカサに乾いたタッチ。ベージュ系のグレンチェックに赤とウグイス色のオーバーペーンが切ってある。コットンギャバジンの硬派なイメージには程遠いが、ちょっとレトロでダサい佇まいはボギーよりもウディ・アレン寄りの世界観。ボギー!俺も男だ!って叫ぶことすらしないで、スウェットパーカやトラックパンツを合わせてナードに着こなしたい、この春。
REVIEW
手元で馴染んだオーダー品
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